子どもの成長にとって大切な「食育」。とはいえ、「何をすればいいの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、家庭で簡単に取り組める食育、さらに野菜嫌いを克服する方法や時短レシピ(ピーマン嫌い克服!)について、日本スポーツ協会・日本栄養士会公認スポーツ栄養士で、管理栄養士でもある河村美樹さんにお話を伺いました。
子どもが野菜嫌いになる原因は?
「子どもが野菜を食べない」「レシピを工夫しても野菜料理は食べてくれない」など、子どもの野菜嫌いについて悩んでいる方もいるのではないでしょうか。子どもが野菜嫌いになる理由は、大きくわけて野菜の「匂い」「色・見た目」「食感」「酸味・苦味」が考えられます。
匂いが苦手
きゅうりなどウリ系の匂いが、カブトムシのえさの匂いに似ている、生臭いと感じることから、野菜嫌いになってしまう子どもがいるようです。また、茹でたキャベツの匂い、ハンバーグやステーキの付け合わせにあるニンジンのソテーや、ミックスベジタブルのニンジンが変な甘い匂いがして苦手というケースもあります。玉ねぎやねぎの独特な匂い、茹でたグリーンピースの臭さが苦手という子どももいるでしょう。
色・見た目が苦手
野菜嫌いの子どもの中には、ナスの紫を見ると食欲がなくなるという場合があります。野菜の見た目そのものが嫌いなのではなく、匂い・食感・味が苦手な野菜が料理に入っているとわかったら食べないというケースも考えられます。
食感が苦手
野菜の食感が苦手な子どももいます。とくにトマトの種の部分の“ぐじゅぐじゅ”感や、ミニトマトを噛んだ時に中身が”プシュッ”と出てくる感触が嫌いという子も多いのではないでしょうか。また、ナスの漬物の歯ごたえや、茹でたほうれん草やアスパラガスの嚙み切れないような軟らかさが苦手な子どももいます。
酸味・苦味が苦手
野菜の中でも、ゴーヤー、ピーマンの苦み、カイワレ大根の辛味、菜の花や山菜、タケノコの苦み・えぐみ、トマトの酸味などが苦手という場合があります。
子どもの野菜嫌いを克服する方法
子どもが嫌いな野菜は、細かく刻んで食べさせているという方も多いのではないでしょうか。でも、野菜嫌いを直すには、まずは子どもに、なぜその野菜が嫌いなのかを聞いてみることが大事。味、見た目、食感、匂いなど、嫌いな原因によって対処法は違ってくるからです。
食べる環境を変えてみる
友だちなど、普段一緒に食べていない人と食べることで、嫌いなものがあっても残しにくかったり、他の人の食べ方を見て気づくことがあるので、食事の環境を変えてみるのもいいでしょう。とくにお泊りでの食事は、食器や食べる場所の雰囲気も変わるので、同じ料理でも見方が変わる可能性があるのです。
また、家の中ではなく公園や山など自然の中で食べたり、たくさん身体を動かしてから食べると食欲がいつもより出ることがあるでしょう。子ども自ら収穫した食材を使って料理をつくったり、親子で一緒に調理した料理を食べるのも、食欲が増すきっかけになるはずです。
食経験を積む
食経験を積むことも、子どもの野菜嫌いを克服する方法の一つです。例えば「漬物でしか食べたことがなく苦手だったナスを麻婆ナスで食べたらおいしくて好きになった」など、調理方法や味つけが異なる料理を食べておいしかった経験があると、次から食べられるようになることがあります。
子どもはどうしても見たことがない、食べたことがない食材を口にするのには抵抗があるため、様々な食材を口にしておくと、学校給食など家庭以外の食事をした際にも食べやすいでしょう。
よくある例ではないかもしれませんが、海外に行って口に合わない食事を摂らなければならず、日本に帰国した際に、同じものを食べたら今までよりおいしく感じて好きになる、ということも「食経験」の一つと考えてよいかもしれません。
食事中に料理名や食材の話をする
テーブルに並んでいる食事の話をすることが、子どもの野菜嫌いの克服につながることもあります。先にも述べたように、子どもは知らない食材・料理は口に運ぶのに抵抗を感じることがあるので、普段の食事から「これはサバの味噌煮だよ」など目の前にある料理と知識を結びつけるような声掛けをしていると、家庭外で同じ料理を見たときに「これはおいしい(食べられる)料理」とわかって抵抗なく食べられるでしょう。
また、子どもが間違えやすいレタスとキャベツは、例えばレタスを使ったサラダを出した際に、「このサラダに入っているのはレタスだよ」と、いつも話していれば、子どもは知らず知らずのうちに、レタスの見た目や味を認識するようになり、食育にもつながります。
味覚の話をしてみる
食事中の会話の中で、食材や料理名だけでなく、味覚の話をするのもいいでしょう。子どもの味覚は発達段階なので、いろいろな食材を使い、どんな味だと感じているのかを聞いてみると食育にもつながるものです。また、作ったおかずの味を聞いて「しょっぱい」などと言えば、次に作る際に味を調整することもできるようになります。
食事のマナーを身につけさせる
野菜嫌いな子どもは食事中に遊んでしまったり、だらだら食いになってしまうことも多いものです。そんな時は「これだけは食べよう」「お母さんが食べちゃうよ」などと声をかけると、食べ始める場合もあります。いつもと違った食器を使ったり、子ども自身にスプーンや食器を選ばせると、すすんで食べることもあるでしょう。
なお、食事のマナーは学校では習わないからこそ、家庭で教えることが重要です。子どもが「ひじをついて食べていないか」「お箸が正しく使えているか」「お茶碗を持って食べているか」などを気にかけてみてあげましょう。また、子どもは大人の真似をするので、親も意識して正しい食事マナーで食べるようにしましょう。
とはいえ、子どもに食事のマナーを注意しても、なかなか言うことを聞かないこともありますよね。そんな時は、ゲーム形式にするのがおすすめです。例えば、毎回ひじをついて食べているのであれば「何秒、ひじをつかないで食べられるか競争しよう」と持ちかければ、子どもは楽しみながらやろうとするかもしれません。毎回は難しいと思うので、余裕がある時にぜひやってみましょう。
子どもの「調理力」を育む
子どもにとって、将来、自立する上でも大事になってくるのが「調理をする力=調理力」。調理を経験することで、この調味料を足せばおいしくなるといった味覚が育まれ、それは嫌いな食べ物を克服することにも役立ちます。
調理力は、子どもの頃から調理を経験していたかどうかで差がでてくるといえるでしょう。たとえ包丁を使わなかったとしても、小学生の頃から調理を経験していれば、高校生になった時にお弁当を作れたりするなど、年齢を重ねた際に、違和感なく調理ができるものです。野菜を洗ったり、ちぎったりは小さなうちからできるので、遊び感覚や簡単なお手伝いとしてできるだけ調理を一緒にするとよいでしょう。
焦らず子どもと向き合う
「子どもの野菜嫌いを克服させなければ・・・」と必死になると、心労も溜まってしまうものです。先にも述べたように、子どもの味覚は発達段階で、とくに酸味や苦味は経験することで好きになっていくことも多く、今、嫌いな野菜でも、ゆくゆくは食べられるようになることもあります。ですので、嫌いな野菜を無理して食べさせようとするのではなく、それに似た栄養素を含む野菜で補うというのも一つの方法です。ピーマンが嫌いなら、トマトやニンジン、ほうれん草、かぼちゃなどを食べることで、ピーマンに含まれるビタミンAやビタミンCが補えるのです。「子どもが嫌いな野菜は、食べられるようになってきたら徐々に増やしていく」という考え方でもいいのかもしれません。
野菜嫌いな子どもにおすすめの味付けや調理法とは?
野菜嫌いな子どもは、いくらレシピを工夫しても野菜だけ残してしまうことがあるのではないでしょうか。忙しい毎日の中、頑張って調理をして残されてしまうと、落ち込みますよね。ですので、あまり深く考えずに、子どもが好きな味付けに変えたり、野菜が入っているとわからないような調理をするのがおすすめです。
子どもが好きな味付けにする
野菜の味や匂いが苦手な子どもには、「照り焼き」「カレー」「マヨネーズ」「チーズ」など、子どもが好きな味付けにするといいでしょう。
例えば、多くの子どもが苦手とするピーマンやゴーヤー。見た目よりも苦味が嫌いな場合が多いので、形は残したままでも、苦味を抑えた味付けにすれば、簡単に食べたりするのです。
小さく刻むなど、調理方法を変えてみる
野菜の見た目や食感が苦手な場合は、「刻む」「すりおろす」「揚げる」など、調理法を変えて、野菜が入っているとわからないようにするといいでしょう。
また、大人が憧れのスポーツ選手の名前を出して「○○選手はトマトが好きみたい」と伝えたり、「○○君(ライバルの子)は好き嫌いがないらしいよ」といった声掛けをすることで、気持ちが動いて、これまでは食べなかった嫌いな野菜を口にすることもあるでしょう。
管理栄養士おすすめレシピ直伝!
「ピーマン入り時短キーマカレー」
野菜の中でも、子どもの嫌いな野菜ランキングの上位に上がるピーマンは、食べさせるのに悩まれているご家庭も多いのではないでしょうか。そこで、ピーマンを使った、簡単にできるキーマカレーをご紹介します。
市販のレトルトカレーの具と炒め玉ねぎを使うので、みじん切りにするのはピーマンのみ。肉の色が変わればほぼ具が加熱されているので、短時間で作れます。また、味付けはレトルトカレーをベースに、ケチャップとカレー粉で甘さと辛さの調節ができるので、あれこれ迷わずに作れるのもポイントです。
<材料(子ども1人分)>
・ピーマン…緑1/2個(赤があれば赤緑1/4個ずつ)
・塩…少々
・合いびき肉…70~80g
・冷凍ほうれん草…ひとつまみ
・市販炒め玉ねぎ…大さじ1~2
*お好みで市販ゆでビーンズ(ひよこ豆など)、みじん切りにしたエリンギなど
・バター…小さじ1/2
・カレー粉…小さじ1/4~1/2
・子ども用レトルトカレー…1袋(90g)*具が入っているもの
・トマトケチャップ…大さじ2~3
・ごはん…1人分
作り方
1.ピーマンは洗ってへたを切り、種とわたを取り除き、みじん切りにする。耐熱容器に入れて塩もみし、ラップをして電子レンジ(600W)で30秒程度加熱したら、水けをしぼる。
2.フライパンに1、カレー粉をふった合いびき肉、冷凍ほうれん草、炒め玉ねぎ、ビーンズ、エリンギ、バターを入れ、中火にかける。肉の色が変わるまでよく混ぜながら炒める。
3.肉の色が変わったらレトルトカレーとケチャップを入れ、レトルトに入っている具をつぶしながらさらに炒める。味をみて、辛かったらケチャップを、味を濃くしたい場合はカレー粉を増やす。
4.皿にごはんを盛り、3をかければできあがり。
ポイント
①ピーマン嫌いになる多くの理由は苦味。作り方1の方法を覚えておくとピーマンの苦味が減り、食べやすくなるので、他の料理にも使えます。赤ピーマンがあれば、緑のものよりも苦みが少ないので赤ピーマンも使用するとよいでしょう。
②具材は何でもかまわないので、余った野菜を使い切りたい時にも便利です。
調理時間に余裕があれば、みじん切りにしたエリンギや下処理したレバーを加えたり、型抜きしたスライスチーズをトッピングするのもおすすめです(写真はエリンギのみ入っています)。
③大人の味にするには、ケチャップを加えず、味付きトマトソース(トマト煮に使うもの)とカレー粉、またはお好みの粉末カレールウを加えて作ります。さらにクミンを入れるとカレーの風味が増し、カイエンペッパー(チリペッパー)を加えれば辛みがアップ。
いかがでしたか?前編では、食育の基本や野菜嫌いを克服する方法についてお届けしました。後編では、バランスのよい食事を作る秘訣や時短レシピ、朝食の重要性などをご紹介します。
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取材・文:サカママ編集部 取材協力:河村美樹(日本スポーツ協会・日本栄養士会公認スポーツ栄養士、管理栄養士。2012年から2019年まで名古屋グランパス管理栄養士として、選手への個人アドバイス、献立調整などを行った。愛知医科大学、静岡産業大学の非常勤講師も務める。現在はHPCJCスポーツ栄養士として自転車競技の日本代表選手の強化に携わっている)