お手伝いをすることを最優先する、“お手伝い至上主義”を掲げ、実際に3人の娘さんを立派に育てた、大学教授・三谷宏治さん。子どものお手伝いにまつわるさまざまな書籍の中で、「お手伝いは、親への感謝の心や周囲への気配り、そして自立心や問題解決力を育む」と語る三谷さんに、お手伝いが育む力とお手伝いにおすすめの家事を教えていただきました。
<教えてくれた人>
三谷宏治さん
東京大学理学部物理学科卒業後、外資系コンサルティング会社2社で、経営コンサルタントとして働く。現在は、大学教授や講義・講演者として全国で活躍中。子どものお手伝いにまつわる主な著書に『お手伝い至上主義!』(プレジデント社)や『戦略子育て 楽しく未来を生き抜く「3つの力」の伸ばし方』(東洋経済新報社)などがある。3姉妹のお父さん。
お手伝いをする子は、
社会に出たときに困らない
炊事、掃除、洗濯……将来ひとり暮らしになったときも困らない生活力が身につくお手伝い。それだけではなく、社会に出た時に役に立つさまざまな力を育むと、三谷さん。
「お手伝いをすることで、子どもたちは、取捨選択しながら段取りよく行動することを覚え、色々なことに気を配ることができるようになります。さらに、親や周囲に感謝する心が育まれることも、大切なポイントの一つと考えています」
・感謝の心が育まれ、周囲に気配りができるようになる
・意思決定力や問題解決力を育てる
・段取り力が身につき、成績UPにもつながる
「私が“お手伝い至上主義”を掲げて、わが子に伝えたかったことは、『大人は子どもにはできない大事なことを、毎日たくさんやっているということ』です。大人が仕事をしているから、家族は衣食住を得られ、大人が家事をやっているから家族は快適に暮らすことができます」
家事や家業の一部を子どもが担う(家事分担する)ことで、その大変さやありがたみを理解することができ、大人への感謝や他人への気配りの心も育まれるのではないでしょうか。
「現代の子は、勉強や部活に忙しく『お手伝いなんてしなくていい』という親御さんもたくさんいます。しかし、小さな頃からお手伝いをしている子は成績もよい子が多いという調査結果があります。お手伝いを通して、段取り力が鍛えられ、自己コントロールができるようになるからです。家事というリアルな体験の中で、子どもは視野を広げ、失敗してしまった時に次にどうすべきかを考える問題解決力を育んでいくのです」
大事な家事を分担することで、失敗もするでしょう。でもそこで叱るのではなく、改善策を求めることで、「なんとかなる」と前向きに乗り切ろうとする感覚や、リアルな問題解決力が身についていきます。これは社会に出てからも非常に大切な能力の一つと言えそうです。さらに、家族の役に立っていると実感することで、自己肯定感の向上にもつながると考えられます。
大人は“任せる覚悟”が必要。
子どもへの適切な任せ方は?
子どもに家事を教え・任せることは、とても手間のかかることです。ですが、お手伝いは家事を完了させるというミッションの中で、子どもが責任を持ち、自ら考えて創意工夫して行動するための「訓練の場」と捉えることが大切と三谷さんは語ります。
「子どもへお手伝いを頼むときは『今このお皿を洗って』ではなく、『お皿を洗う係ね』と、子どもを“責任者”として任命することです。完了してほしい期限を伝えて、やり方については干渉しすぎないようにすること。それは子どもが、自分自身で創意工夫するきっかけを失わないようにするためです」
実際に三谷さんが小さい頃、実家の八百屋さんのお手伝いの一つに、「家の自動販売機に売り切れが出ないように、缶を補充すること」があったそうです。お店の売り上げを担う重要な役割。単純作業ですが、当時の三谷さんはレールを走るトロッコのように缶を連結させながら入れるなど、まるで遊ぶような感覚で楽しく補充する方法を見つけていたようでした。
「たとえば、ごっこ遊びにしたり、兄弟同士で競争したり、早く終わるように効率的にやったり、子どもの想像力に委ねることが大切です。任されたことを完了する、という最終目的が達成すればいいので、やり方に関してはうるさく言わないこと。途中で手を貸したくなっても、ぐっと堪えてください。そして最も大切なことは、子どもが失敗しても怒らないこと。失敗も受け止める覚悟で、お手伝いの係を任命してください」
最も効果的なお手伝いは
“やらないとみんなが困ること”
「小さなことからでいいので、それが完了されなければ、家族みんなが困るようなことを任せましょう。例えば、『もしご飯が炊けてなかったら、次の日の朝ごはんがない』『もし靴下畳みが滞れば、みんなが履く靴下がなくなる』など、責任が発生する内容がいいですね」
今回は三谷さんに “初めてのお手伝い”におすすめの家事を教えてもらいました。
1.食事の準備や後片づけ…
炊飯、食器を準備する、食器を下げる、食器洗いなど
2.布団を敷く・整える
3.靴下など小さいものを畳む・片づける
はじめは、お箸やスプーンの準備だけの担当に始まって、コップなどの割れものも担当にする、など一つできるようになったら、徐々に範囲を拡げて、どんどん責任のあることを任せていくのが効果的。子どもの得意・不得意なジャンルを見つけて、柔軟に内容を変えるのも大人の役割です。
毎日の積み重ねが、子どもの段取り力や問題解決力、周囲に感謝する心を育むことにつながり、学校生活や社会人になってから大いに役に立つでしょう。とはいえ、ゲームや遊びと違って、はじめは子どもにイヤがられたり、失敗したり、なかなかうまく続けられないかもしれません。それでも徹底して続ける、が三谷さん流の“お手伝い至上主義”。後編では「子どもがお手伝いを楽しみながら、進んでできるようになる工夫」を教えていただきます。
撮影/上原朋也 モデル/木村りょうさん、さやこさん、いとちゃん 取材・文/阿部里歩 監修/HugMug編集部