佐藤ママで知られる佐藤亮子さんと一緒に、子どもへの声かけについて考える4話連載企画。Vol.1では“なぜ声かけが子育てにおいて重要なのか”、Vol.2では“子どもを注意するとき”にどう声かけをするか、についてご紹介しました。そして今回Vol.3では、 “子どもを褒めるとき”にどんな声かけをしたらいいのか、アドバイスをいただきます。
<教えてくれた人>
佐藤亮子さん
津田塾大学卒業後、地元大分県内の私立高校で英語教師として勤務し、結婚。その後、奈良県に移り、長男、次男、三男、長女の4人の子どもを育てる。長男、次男、三男は灘中学・高等学校、長女は洛南中学・高等学校を経て、東京大学理科3類に進学。現在は4人とも医学の道に進む。その育児法や教育法が注目を集め、全国で講演活動を行うほか、『子育ては声かけが9割』(東洋経済新報社)ほか著書多数。
「褒めて伸ばす」とはよく言いますが、褒めることは簡単なようでいて、じつはとても難しいもの。子どもを褒めるとき、あなたはいつも何と声をかけていますか?「偉いね!」「すごいね!」「がんばったね!」……子どもを褒めてあげたいという想いは同じでも、佐藤さんが勧める「子育てにおいて最強の武器になる適切な声かけ」は、いったいどのようなフレーズなのでしょうか。まずは佐藤さんに、“子どもを褒めるとき”の声かけの基本姿勢について教えていただきます。
―声かけの基本1―
褒める理由を具体的に伝える
「子どもは褒められた理由を分かっていないときがあるので、その理由を具体的に伝えることが大事です。たとえば、『前にできなかった◯◯ができるようになってすごいね!』と褒めてあげると、『じゃあ、今度は別の◯◯もできるようになろう!』という前向きな気持ちや行動につながるでしょう。ただし、この褒め方は普段から子どもが苦手なことを、親がきちんと観察して把握していなければできません。子どもは親がいつも自分を見守っていてくれると感じると、親への信頼感が増します。Vol.1でもご紹介した通り、親子間の信頼関係は子育てを円滑に行うためには不可欠です。ぜひこの褒め方を意識して実践してみてくださいね」
―声かけの基本2―
「偉いね」は使わない
「子どもを褒めるときに『偉かったね』と声をかけがちですが、私は使わないようにしていました。一般的に、会社の社長などを“偉い”と形容することがありますよね。でも、社長だから偉いというのは正しいのでしょうか? そこには社会的ステータスや上下関係が自分よりも上に感じるから偉いんだという意味合いが含まれていて、他人と自分を比較している言葉です。もし何かと比較するなら、自分自身の中でどれだけ成長したかを比較するべきです。私は子どもに人を見かけや肩書きで判断するようにはなってほしくなかったので、褒めるときは『偉いね』ではなく『すごいね』を使うようにしていました」
―声かけの基本3―
失敗したときこそ絶好の褒めチャンス
「どんなにがんばっても、結果が伴わないこともあります。失敗して落ち込んでいる子どもに『できなかったんだ』と追い打ちをかけるのではなく、そういう場合こそ、じつは褒めて伸ばすチャンスです。たとえば、習い事で練習をとてもがんばっていたけれど本番で失敗したとします。そういうときには、『練習よくがんばったね。あと少しだったね』と褒めてあげてください。そして、『あなたなら次はできるよ。またがんばって練習しよう』『次は◯◯を練習してみよう』など、次の行動につながるアドバイスをしましょう。すると子どもは自己肯定感を高め、『またチャレンジしてみよう』という気持ちになります。基本1でも触れましたが、親子間の信頼関係が成り立っていればなおさら、『ママやパパの言うことを信じれば大丈夫。やってみよう』という気持ちになってくれますよ」
次に、読者から寄せられた声かけの悩みに、佐藤さんならどう声をかけるのか、またそのポイントについて聞きました。
<声かけのお悩み>
テストの結果にやる気をなくした娘。
もう一度やる気にさせる褒め方は……?
算数が苦手な小3の娘。テストのために毎日勉強をして100点を目指しました。でも結果は70点。前よりも点数は上がったのですが、娘には納得のいく結果ではなかったようで、それ以降はやる気をなくしてしまいました。「70点も取れたのだからよかったじゃない」と褒めたのですが、この場合はどう褒めるべきだったのでしょうか?
<佐藤ママの声かけ>
「毎日勉強をがんばったから前よりよくなったね」と
笑顔で声をかけ、間違った問題を一緒に見直す。
■ポイント1
点数ではなく、前よりよくなったことにこだわる
「このお悩みの場合、70点という点数にお子さん自身が納得していないようですね。きっと、いつもよりも勉強をがんばったのだからもっと点数が取れたはず、と悔しいのだと思います。ですので、親もその気持ちを察知して、『70点』という点数にこだわらないようにしましょう。大事なのは『前よりよくなった』こと。その部分をポジティブに褒めてあげるといいでしょう」
■ポイント2
毎日勉強したという過程を笑顔で褒める
「結果だけではなく、過程を褒めることも大事です。毎日テスト勉強をがんばっていたということなので、そこを何よりもまず褒めてあげましょう。そして、そのときはぜひ笑顔で声をかけてあげてください。すると落ち込んでいた子どもの心も明るくなり、前向きな気持ちに変わっていくはずです」
■ポイント3
間違った問題を見直しする
「ひとまず子どものがんばりを褒めた後に、『間違えたところを見直そうか』と私なら声をかけます。どこを間違えたのか具体的に精査することが大事です。たとえば、『もう少し丁寧に文字を書いていたら点数になっていたかもね』などと具体的に声をかけます。とくに、『間違えたけれど、惜しい間違いだった』と子ども自身が思えるような気持ちを上げる声かけができると、次に向けてやる気を出せるでしょう。そして、『これなら次はできるね、あなたなら大丈夫』と自信をもたせましょう」
■ポイント4
「一緒にやろう」と声をかける
「このお子さんの場合、算数に苦手意識をもっていて、さらにがんばったのに結果が出ずに自信をなくしている状態ですよね。このような場合は、勉強するときに『一緒にやろう』と声をかけてあげるといいでしょう。Vol.2のポイント2でもご紹介しましたが、子どもが取り組むときには親がそばにいて見てあげると子どもはやる気を出します。とくに苦手としていることに取り組もうとしているときはなおさらです。ぜひ根気強く続けてみてくださいね」
■ポイント5
どんなときも親の態度は一定にする
「褒めるときと注意するときの親の態度を同じにしましょう。注意するときは名前を『◯◯!』と呼び捨てしているのに、褒めるときだけ『◯◯ちゃーん』と猫なで声で呼んではいませんか? 子どもは名前の呼ばれ方だけでも親の心を見抜いていて、下心が見え見えです。これが繰り返されると、褒められようと親の顔色ばかりを気にするようになってしまいます。親の気分で声かけを変えるのは、相手が自分の子どもだからいいだろうという甘えがあるからで、子どもに失礼です。『子どもは身体が小さな大人』だと考えて、親子の信頼関係を築くためにも、親の態度はいつも一定にしましょう」
いかがでしたか? “子どもを褒める”ことの根底には、子どもの自己肯定感を高め、何事にも前向きな気持ちで挑戦してほしいという親心があるはずです。そのことを常に冷静に意識していられると、適切な褒め方ができるのかもしれません。次回Vol.4はいよいよ最終回、11月中旬に公開予定です。読者から寄せられた日常で起こったさまざまな声かけの悩みについて、佐藤さんにアドバイスをいただきます。お楽しみに。
Vol.1 声かけが子育ての最強の武器になるのはなぜ?はこちら
Vol.2 こんなときはどう声をかける?〜子どもを注意するとき〜はこちら
Vol.4 こんなときはどう声をかける?〜よくある日常シーン〜はこちら
この連載の他の記事はこちら
イラスト:SHOKO TAKAHASHI 編集・文:鈴木志野 監修:HugMug編集部