ごはんを食べている時や勉強している子どもの姿を見て、つい「背筋をピンとして!」と言うことはありませんか?子どもの姿勢は、何かと気になるものです。そこで今回は、子どもの体の問題を研究し続けている日本体育大学・野井真吾先生に、姿勢が悪くなっている原因や、正しい姿勢を身につける方法をお聞きしました。
子どもの姿勢は長年の問題に!
子どもの姿勢の悪さは、根強い心配ごとの一つです。5年に1度、保育・教育現場の先生に「子どものからだ調査(実感調査)」をしており、先生が日頃から子どもを観察している中で「最近増えている」と実感している事象のワースト10が明らかになっています。その中で、2015年の調査結果をみても「背中ぐにゃ」(「座っている時、背もたれに寄りかかったり、ほおづえをついたりしてぐにゃぐにゃになる子」)が、保育所・幼稚園で2位、小学校では4位になっていることがわかります。
この調査を始めた1978年も、小学校の1位が「背中ぐにゃ」という結果だったことから、子どもの姿勢は長年の問題であるといえるでしょう。
姿勢が悪くなっている原因は?
子どもの姿勢が悪くなっている原因の1つには背筋力の低下が考えられます。背筋力は、全身の筋力の指標となり、年々、子どもの背筋力は低下し続けていることがわかっています。本来は、身長が伸びると同時に、体を支える筋力も高めなければいけないものの、例えば、エレベーターやエスカレーターといった移動手段が増えるなど便利で快適な生活になりすぎて、日常に関わる筋力を使う機会が少なくなっているといえます。
また、姿勢は脳の働きにも影響しています。やりたくないことをしている時、姿勢が崩れませんか?大脳の前頭葉は、やる気や集中力を司っています。近年、前頭葉の発達が未熟な子が増えているといわれ、それも姿勢が悪い子が増えている要因といえるでしょう。
セロトニン不足が姿勢の悪さにつながっている!
最も大きな要因として考えられるのが「セロトニン」不足です。セロトニンとは、脳内に分泌されるホルモンのこと。セロトニンは、顔やお腹、背中、足など体を支える筋肉「抗重力筋」に緊張を与え続ける作用を担っています。
人間は、重力に逆らって姿勢を保っているため、抗重力筋の働きが重要になります。けれど、セロトニンが不足してしまうと、抗重力筋が十分に働かず、結果、正しい姿勢を保つことができなくなってしまいます。
セロトニンは、太陽の光を浴び、体を動かすことで増えていきます。けれど、現代の子どもたちは、昔に比べて外遊びの機会が減っているがゆえ、セロトニンが不足しているのです。また、先にも述べたように社会が便利になりすぎて、体を動かすことが少なくなっているのもセロトニン不足の要因といえるでしょう。
セロトニンは夜になると「メラトニン」という、体温を下げて眠りのもととなるホルモンに変わります。セロトニンが不足していると、よく眠れなかったり、朝起きられないなど、生活のリズムが乱れる原因にもなってしまいます。
さらに、セロトニンは、イライラや緊張を抑える精神安定作用もあります。今、イライラする子やキレやすい子が増えているといわれているのは、セロトニンが不足していることが要因の一つと考えられるでしょう。
つまりセロトニンは、正しい姿勢を保つのはもちろん、生活リズムの乱れを防ぎ、気持ちをコントロールするうえでも、子どもたちにとって大切なのです。
セロトニンを増やす3つの方法
では、どうすればセロトニンをたくさん分泌することができるのでしょうか。
日常生活ですぐに取り入れることができる3つの方法をお聞きしました。
1.太陽の光を浴びる
セロトニンの分泌を増やすには、太陽の光を浴びることです。朝起きたら、まずは太陽の光を浴びることを習慣にしましょう。朝ごはんを食べることでもセロトニンは分泌されるので、朝食もしっかりとることが大事です。セロトニンが分泌されると、体内時計がリセットされるので、生活リズムも整いやすくなります。
また、いち早く太陽の光を浴びるために、カーテンを開けて寝るのもいいでしょう。まぶたは光を通すことができるので、目を閉じて寝ていても、太陽の光を感じることができるのです。とくに朝起きるのが苦手な子にはおすすめです。
2.歩く(動く)こと
歩くことがセロトニン分泌に及ぼす影響を調べたラットの実験(※)によると、歩行運動中は、セロトニンの分泌が増加し、歩行を中断すると元に戻ることがわかっています。
ですので、セロトニンを増やすためには、歩いたり、動くことが大事です。公園で遊ぶのはもちろん、30分程度歩くだけでも効果があるといえるでしょう。
なお、イライラしたり喧嘩をした際は、散歩をおすすめします。歩くことでセロトニンが分泌されるので、気分も落ち着いていくはずです。
3.深呼吸する
深呼吸をすると、セロトニンが増えるという研究結果(※)もでています。日常生活の中で、時々、深呼吸をしましょう。
正しい深呼吸の方法は、鼻から空気をたくさん吸って、口からゆっくりと息を吐くことです。
姿勢が悪くなったと思ったら、深呼吸をして、正しい姿勢に戻しましょう。
※有田秀穂 『基礎医学から リズム運動がセロトニン神経系を活性化させる』 日本医事新報社 No.4453(2009年8月29日)
いかがでしたか?前編では、姿勢が悪くなっている原因と、正しい姿勢を保つために必要な「セロトニン」についてお届けしました。後編では、姿勢、骨盤の歪みをチェックする方法や、正しい姿勢を保つための簡単な柔軟体操をご紹介します。
取材・文:サカママ編集部 取材協力:野井真吾(日本体育大学 体育学部 健康学科教授。子どものからだと心・連絡会議議長) 参考文献:野井真吾著『大人になってこまらない マンガで身につく正しい姿勢で元気な体』(金の星社)、『子どもの“からだと心”クライシス』(かもがわ出版)