子どもの姿勢が悪いのはなぜ?姿勢が悪化する原因から改善方法まで解説

気になる子どもの姿勢。現代の子どもの姿勢と、姿勢が悪くなる原因とは?

ごはんを食べているときや勉強している子どもの姿を見て、つい「背筋をピンとして!」と言うことはありませんか? 子どもの姿勢は、何かと気になるものです。そこで今回は、姿勢が悪くなっている原因や、正しい姿勢に矯正する方法をご紹介します。

こんな状態になってない? 子どもに多く見られる悪い姿勢は3パターン

子どもがなりやすいと言われている悪い姿勢は、大きく分けて3パターンあります。それが「猫背」「反り腰」「傾いた姿勢」です。

猫背

まっすぐ立った姿勢を横から見た際、背中が丸まって頭が前に出ている状態を指します。姿勢が悪い子どもの7~8割が猫背に当てはまると言われており、悪化すると背骨や肩甲骨に負荷がかかり、骨が変形してしまうことにもつながります。

反り腰

同じように直立した姿勢を横から見たときに、腰が大きく反り返っている状態を反り腰と言います。人間の体はもともと重心が前に偏りやすいので、しっかりと体を支える筋肉がないと、腰に負荷がかかってしまうのです。男性よりも女性のほうが反り腰になりやすいのは、筋肉が比較的少ないからだと考えられています。

傾いた姿勢

正面から直立した姿勢を見たときに、片方の肩が極端に下がっているなど、体が左右どちらかに歪んで傾いているような姿勢です。

こういった姿勢を長く続けてしまうと、首や肩凝りが慢性化して筋肉や血流にも影響が出てしまったり、体を支えるはずの骨盤の変形や関節痛などを引き起こす可能性もあります。(*1)

子どもの姿勢は長年の問題に!

子どもの姿勢の悪さは、根強い心配ごとの一つです。5年に一度、保育・教育現場の先生に「子どものからだ調査(実感調査)」をしており、先生が日頃から子どもを観察しているなかで「最近増えている」と実感している事象のワースト10が明らかになっています。2015年の調査結果を見ても「背中ぐにゃ」(座っているとき、背もたれに寄りかかったり、ほおづえをついたりしてぐにゃぐにゃになる子)が、保育所・幼稚園で2位、小学校では4位になっています。

この調査を始めた1978年も、小学校の1位が「背中ぐにゃ」という結果だったことから、子どもの姿勢は長年の問題であるといえるでしょう。

便利で快適な生活が、姿勢悪化の原因に?

子どもの姿勢が悪くなっている原因について、子どもの体の問題を研究し続けている日本体育大学・野井真吾先生に伺いました。

子どもの姿勢が悪くなっている原因

「原因の一つに、背筋力の低下が考えられます。背筋力は、全身の筋力の指標となり、年々、子どもの背筋力は低下し続けていることがわかっています。本来は、身長が伸びるのと同時に、体を支える筋力も高めなければいけないものの、例えばエレベーターやエスカレーターといった移動手段など、便利で快適な生活に慣れすぎた結果、日常に関わる筋力を使う機会が少なくなっているといえます」

運動能力が低下している

国民の体力・運動能力の現状を明らかにすることを目的としてスポーツ庁が実施している「体力・運動能力調査」によると、6~19歳の青少年において、最近10年間で男子の合計点が一部年代で低下傾向を示しています。(*2)

環境や遊び方が変化している

核家族化やデジタル化など、子どもを取り巻く環境の変化に伴い、遊び方にも変化の傾向が見られます。PCやスマートフォンのゲームが発達したことで、室内での遊びの時間が増えた一方、外遊びの機会が減少したのです。こういった遊びの質の変化によって、前述の運動機能の低下や普段の姿勢にも影響が出ているものと思われます。(*3)

姿勢は脳にも関係している?

また、姿勢は脳の働きにも影響していると野井先生は言います。

「やりたくないことをしているとき、姿勢が崩れませんか? 大脳の前頭葉は、やる気や集中力を司っています。近年、前頭葉の発達が未熟な子が増えていると言われていますが、それも姿勢が悪い子が増えている要因かもしれません」

要注意! 子どもの姿勢が悪化してしまうのはどんなとき?

環境や遊び方が変わり、子どもの運動能力や筋力の低下、それに伴った姿勢の悪化が顕著になっていることがわかりました。それでは、具体的にどのような場面で姿勢が崩れてしまうのか、あらためて確認してみましょう。

勉強や読書をするとき

姿勢と集中力は密接に関係しています。人間は、姿勢が悪くなるとそのぶん余計な筋力を使って体のバランスを保とうとします。それによってさまざまな神経が圧迫され、脳への血流が減少、集中力の低下だけでなく肩こりや頭痛など、勉強や読書を妨げてしまうことにもつながります。

背筋を伸ばし、正しい姿勢を意識することで、胸が大きく開き、肺へ空気を取り込みやすくなります。呼吸が深くなると、脳に送られる酸素の量が増え、全身の血行が良くなることで疲れを感じにくくなったり、集中力が上がったりと勉強や読書をするうえでのメリットがたくさんあります。ぜひ、子どもが勉強しているときの姿勢を意識して見てあげてください。(*4)

スマホでゲームをするとき

勉強や読書と同じように、子どもがゲームをする際も姿勢を意識してみましょう。子どものゲーム環境は、以前は大きなテレビの画面に映し出してみんなで遊ぶものが親しまれていましたが、現在はスマートフォンなどの小さな画面を一人でのぞき込むものが主流となっています。

2023年に小、中学生の親子を対象に実施した調査では、昨年のスマートフォン所有開始の平均年齢は10.6歳となっており、この年代の長時間の使用は姿勢だけでなく視力にも悪影響とされています。(*5)

食事をするとき

子どもと一緒に食事をしているときに姿勢が悪いと感じたことがある方もいるのではないでしょうか。上記のような生活で適切な姿勢を保てなくなっていることも考えられますが、実は食卓のテーブルやイスの高さがあっていないことが起因しているかもしれません。子どもが食卓に座る際、正しい姿勢を保てる高さになっているかを確認するために、テーブルやイスを見直してみましょう。

子どもの姿勢を矯正する方法

「姿勢を直しなさい」と注意をしたり正しい姿勢を教えたりしても良くならないという場合は、子どもへの伝え方を変えてみましょう。ただ「直しなさい」と言うのではなく『なぜ姿勢を良くするべきなのか』を伝える、あるいは姿勢悪化の原因となっている習慣や遊び方から見直してみることで、本人の意識を変え、悪くなる原因から根本的に対処することができるのです。

なぜ姿勢を良くするべきなのかを説明する

まずは、良い姿勢でいることのメリットを伝えてみましょう。『なぜ姿勢を良くするべきなのか』『姿勢が良いとこんなにいいことがある』ということをお子さん自身が理解することが大切です。

外で運動をする習慣を作る

良い姿勢でいることのメリットをお子さんが理解できたら、外遊びや外で運動をする機会を増やしてみましょう。環境や遊び方の変化で家の中にいることが増えた子どもにとって、外に出る機会は姿勢だけでなく運動能力の改善にも役立ちます。

「セロトニン」を増やすことが重要!

外に出ることのもう一つのメリットとして野井先生が挙げるのが「セロトニン」の増加です。

「セロトニンとは脳内に分泌されるホルモンで、顔やお腹、背中、足など体を支える筋肉『抗重力筋』に緊張を与え続ける作用を担っています。人間は、重力に逆らって姿勢を保っているため、抗重力筋の働きが重要になります。ですが、セロトニンが不足してしまうと、抗重力筋が十分に働かず、その結果、正しい姿勢を保つことができなくなってしまいます。

セロトニンは、太陽の光を浴び、体を動かすことで増えていきます。ですが、現代の子どもたちは昔に比べて外遊びの機会が減っているがゆえ、セロトニンが不足しているのです。また、先にも述べたように社会が便利になりすぎて、体を動かすことが少なくなっているのもセロトニン不足の要因といえるでしょう」

走っている女の子

「セロトニンは夜になると『メラトニン』という、体温を下げて眠りのもととなるホルモンに変わります。セロトニンが不足していると、よく眠れなかったり、朝起きられないなど、生活のリズムが乱れる原因にもなってしまいます。

さらにセロトニンは、イライラや緊張を抑える精神安定作用もあります。今、イライラする子やキレやすい子が増えていると言われているのは、セロトニンが不足していることが要因の一つと考えられるでしょう。

つまりセロトニンは、正しい姿勢を保つのはもちろん、生活リズムの乱れを防ぎ、気持ちをコントロールするうえでも、子どもたちにとって大切なのです」

セロトニンを増やす3つの方法

では、どうすればセロトニンをたくさん分泌することができるのでしょうか。野井先生にお聞きした3つの方法がこちら!

子どもの正しい姿勢 太陽の光を浴びる

1.太陽の光を浴びる
セロトニンの分泌を増やすには、太陽の光を浴びることです。朝起きたら、まずは太陽の光を浴びることを習慣にしましょう。朝ごはんを食べることでもセロトニンは分泌されるので、朝食もしっかりとることが大事です。セロトニンが分泌されると、体内時計がリセットされるので、生活リズムも整いやすくなります。

また、いち早く太陽の光を浴びるために、カーテンを開けて寝るのもいいでしょう。まぶたは光を通すことができるので、目を閉じて寝ていても、太陽の光を感じることができるのです。とくに朝起きるのが苦手な子どもにおすすめです。

2.歩く(動く)こと
歩くことがセロトニン分泌に及ぼす影響を調べたラットの実験によると、歩行運動中はセロトニンの分泌が増加し、歩行を中断すると元に戻ることがわかっています(*6)。ですので、セロトニンを増やすためには、歩いたり、動くことが大事です。公園で遊ぶのはもちろん、30分程度歩くだけでも効果があるといえるでしょう。
なお、イライラしたり喧嘩をした際はとくに散歩をおすすめします。歩くことでセロトニンが分泌されるので、気分も落ち着いていくはずです。

3.深呼吸する
深呼吸をすると、セロトニンが増えるという研究結果も出ています(*6)。日常生活の中で、ときどき、深呼吸をしましょう。正しい深呼吸の方法は、鼻から空気をたくさん吸って、口からゆっくりと息を吐くことです。姿勢が悪くなったと思ったら、深呼吸をして、正しい姿勢に戻しましょう。


いかがでしたか? 前編では、姿勢が悪くなっている原因と、正しい姿勢を保つために必要な「セロトニン」についてお届けしました。後編では、姿勢、骨盤の歪みをチェックする方法や、正しい姿勢を保つための簡単な柔軟体操をご紹介します。

参考記事・書籍
(*1)コクリコ:子どもの「悪い姿勢3パターン」(参照2024-8-5)
(*2)スポーツ庁:令和4年度体力・運動能力調査の結果について(参照2024-8-5)
(*3)環境省:平成8年版環境白書第1章・第2節遊びの変化と環境(参照2024-8-5)
(*4)STUDY HACKER:姿勢を正せば集中できる! 仕事と勉強の効率を上げるための “良い姿勢” の作り方(参照2024-8-6)
(*5)モバイル研究所:スマホ所有開始年齢の低年齢化が下げ止まる10.6歳(参照2024-8-6)
(*6)有田秀穂 『基礎医学から リズム運動がセロトニン神経系を活性化させる』 日本医事新報社 No.4453(2009-8-29)

取材・文:サカママ編集部 取材協力:野井真吾(日本体育大学 体育学部 健康学科教授。子どものからだと心・連絡会議議長) 参考文献:野井真吾著『大人になってこまらない マンガで身につく正しい姿勢で元気な体』(金の星社)、『子どもの“からだと心”クライシス』(かもがわ出版)

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