サッカーや野球など、スポーツの専門的な能力を高める前に、幼児・児童期に身につけておきたい「コーディネーション能力」。後編では、身近な遊びの中でできるコーディネーショントレーニングやコーディネーション能力を高める秘訣を、なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)で、フィジカルコーチを務める広瀬統一先生に伺いました。
コーディネーショントレーニングの条件とは?
コーディネーション能力を高めるトレーニング(以下、コーディネーショントレーニング)というと、むずかしく考えがちですが、本来は、外遊びを通じて、子どもたちは自然と経験し、高めていけるものです。
ですので、コーディネーショントレーニングは、実は、どんな方法でもいいのです。
ただ、下記の5つの条件を踏まえてトレーニングメニューを考えると、より効果的といえるでしょう。
①いろいろな条件の中で複数の動作を組み合わせる(複合性)
②1つの条件でできるようになったら、変化をつける(変化)
③左右、前後、上下、相反する手や方向で行う(両側性)
④普段とは違う刺激を与える(差異化)
例:サッカーをやっている子であれば、テニスボールやバレーボールでリフティングする
⑤10~15分を目安に行う(短時間)
コーディネーショントレーニングは、動きを学習するのではなく、条件がいろいろと変わった時に、それに合わせて自分の動きを変えられるようにすることが目的です。ですので、ある条件で、子どもがコツをつかんだと思ったら、その条件はやめて、新たな条件でやることが大事。パターン化してしまったらその時点で学習になってしまいますし、定着させることに、コーディネーショントレーニングとしての意味はないのです。
ポイントは、できるだけいろいろな条件の中で複合的に行ったり、複合的な動作をすること。例えば、後だしじゃんけん(先攻の人が出したじゃんけんに負けるものを、後攻の人が1秒以内に出す)のようなものでもいいのです。
また、コーディネーショントレーニングは神経系(神経回路)に刺激を与えるトレーニングなので、長い時間行えば効果が高いというわけではありません。1回につき、10~15分行えばいいでしょう。
7つのコーディネーション能力を伸ばすトレーニング方法はある?
前編でお話ししましたように、コーディネーション能力には、7つの要素(リズム能力・バランス能力・定位能力・識別能力・反応能力・変換能力・連結能力)がありますが、これらの要素を一つだけ取り出してトレーニングをすることはできません。複合的に経験することが、コーディネーション能力につながっていきます。
子どもたちが行っている遊びや運動には、どれにも複数の要素が含まれています。ですので、いろいろな遊びや運動を通じて、コーディネーション能力は養っていけるといえるでしょう。ここでは、親子で楽しみながらできる方法をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
変換能力、バランス能力、連結能力などにつながる「足じゃんけん」
二人で向き合って、グー(足を揃える)、チョキ(足を前後に開く)、パー(足を開く)で、じゃんけんをします。最初はグーでスタートし、「じゃんけん」で高く跳び、「ポン」で着地してグー・チョキ・パーのいずれかを出します。
着地前まで相手の出し手をみて、自分の出し手を変えることで「変換能力」、ジャンプしてから地面につくまでの時間的空間を認識することで「空間能力」や「定位能力」、着地後にバランスをとって立つことで「バランス能力」、そして全身の動きを協調させる「連結能力」などの刺激になります。
また、「後だしあり」という条件を付けてみるのもいいでしょう。より高く跳ぶことが強調されますが、「変換能力」や「識別能力」の刺激になります。条件変化を子どもがどのように認識して自分の動きに活用するかを観察するといいでしょう。
反応能力、変換能力、リズム能力などにつながる「その場おにごっこ」
二人で向き合います。親子でやる場合は、子どもが鬼をするといいでしょう。
一人は90度ずつ体の向きをランダムに変え、鬼は相手のおへその前に素早く動きます。この動きが「反応能力」や「リズム能力」「定位能力」の刺激になります。
5~7秒間行ったら終了し、その時に、鬼が相手の前にいることができたら、鬼の勝利です。
また、「フェイントあり」という条件を付けてみるのもいいでしょう。相手は胸だけ方向を変えるなどでフェイントをかけて、より鬼をかく乱することで、子ども(鬼)の「変換能力」の刺激になります。
サッカーの練習に取り入れられるトレーニングメニュー
コーディネーショントレーニングになる「おにごっこ」
コーディネーション能力を高める遊びとしてよくいわれるのが「おにごっこ」です。普段、サッカーをやっている子であれば、トレーニングの中でおにごっこを取り入れると、それだけで差異化になりますよね。おにごっこでは「反応能力」「変換能力」「リズム能力」に加えて、相手と自分の位置関係を把握する「定位能力」も刺激されます。
相手を見ずに逃げ回り、すぐにタッチされてしまう子がいたとして、その子に相手を見て動くよう言うのではなく、鬼に背中を見せてはいけないという条件を加えてみます。そうすることで、その子は鬼の動きを見るようになり上手に逃げられるようになります。また、逃げる範囲を決めたり、手つなぎ鬼にするなど条件や変化をつけることで、コーディネーショントレーニングになるのです。
小中学生のサッカー選手の場合、「ブラジル体操」を通じてコーディネーション能力をチェックする時もあります。ブラジル体操とは、リズムに合わせて動きながらストレッチをする動的ストレッチの一種で、手を回しながら走ったりするなど、複合的な動きをするものです。一度デモンストレーションをしてみて、その通りにすぐできる選手には、より複雑な動きをした時はどうか、できない選手には、それで終わりにするのではなくて、他の条件にした時や、次にやった時にできるようになっているかを見るようにしています。
条件を変えながら、子どもがどういうことだったらできるのか、条件に合わせてどんな工夫をしているのか、また、いろいろな条件の中で、できるようになっていく過程を見てあげることが大切です。
失敗した理由を考えて工夫すれば、コーディネーション能力に
コーディネーション能力を高めるために知っておいてほしいのが「フィードバック」と「フィードフォワード」です。「フィードバック」とは、結果を自分の中に一度受け入れること。「フィードフォワード」は、「フィードバック」した結果をもとに、次の動きを変えようとすることです。
例えば、サッカーでボールを奪うのが目的なら、奪えたら成功、奪えなかったら失敗ですよね。失敗した時に、その理由を考えるのが「フィードバック」です。もし、足を出すのが早すぎたと感じたなら、次に同じような状況になった時に、もう少し相手が近づくまで待とうなど、予め次の動きを作り出すのが「フィードフォワード」です。
「フィードバック」と「フィードフォワード」を何回も繰り返したり、いろいろな条件の中で繰り返し行い、精度や再現性(同じ条件だったら同じように動けること)を高めることが、コーディネーション能力を高めることにつながるのです。
失敗した時に、親や指導者が「失敗したから、こうしなさい」と言ってしまったら、子どもはフィードバックもフィードフォワードも行いませんよね。失敗した時こそ、子ども自身がその理由を考えて、次に成功できるように自分で工夫していくことがポイントです。
なお、小学生の間は、子ども自身が認識し、動きを変えようとしていれば、必ずしも失敗した原因や成功できた理由を言葉にできなくても構いません。ただ、中学生以上になると、「何か工夫したことある?」と親が聞き、自分の言葉で言語化することが、自己の認識を深めていくことにもつながるので、子どもの成長のためにも聞いてみるといいかもしれませんね。
子どもと一緒に遊びながら、親が工夫しよう
最後に、私の子どもが小さい頃、家でよくやっていた、コーディネーショントレーニングにもつながる遊びを2つ紹介しましょう。
まず、部屋のあちこちにジョイントマットを置き、マットの上が島、周りが海という設定にします。マットから落ちたらサメに食べられてしまうという条件にして、おにごっこをしたりするのです。また、移動する時は「けんけん」という条件をつけるのもおすすめです。
もう1つは、私が木という設定で、子どもが私の体をよじ登っていく遊びです。肩までよじ登ったら、肩車をしてあげます。幼稚園の頃は、私が四つん這いになったり、スクワットの姿勢になったりと、子どもが登りやすいように工夫しました。小学校低学年になると、私が立った状態でも、子どもは肩まで登ってきましたね。私は190㎝ほどあるので、登るのが大変だと思うのですが、子どもなりに工夫するものです。
コーディネーション能力は遊びの中でも鍛えられる
コーディネーショントレーニングとむずかしく考えず、子どもと一緒に遊ぶ中で「こういう条件にしたら、どんな工夫をするだろう?」と、楽しみながら行うといいでしょう。些細な条件の変化でも、親が工夫しながら子どもと一緒に遊ぶことが、コーディネーショントレーニングにつながるはずです。
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取材・文:サカママ編集部 取材協力:広瀬統一(早稲田大学スポーツ科学学術院教授、なでしこジャパン[サッカー女子日本代表]フィジカルコーチ)