運動会が近づいてきたり、スポーツを頑張っていると「速く走れる方法が知りたい!」と思うお子さんや親御さんは多いのではないでしょうか。そこで元オリンピック陸上競技選手で、現在はスポーツ科学研究者である谷川聡先生に、足の着き方や腕の振り方など速く走るためのコツや簡単な練習方法をお聞きしました。小学生(特に高学年)の親御さん必見です。
<教えてくれた人>
谷川 聡さん
筑波大学人間総合科学学術院准教授。筑波大学人間総合科学研究科、博士(体育科学、筑波大学)。専門分野はコーチング論・トレーニング学・ハイパフォーマンス。陸上競技110mハードルでオリンピックに2回出場・2度の日本記録更新。陸上だけでなく球技種目のスプリントおよび方向転換などの研究をしながら、ハイパフォーマンス競技者のトレーニング指導をおこなっている。
速く走るための方法①
「地面をしっかりとらえて、大きな動きをする」
小学5年生くらいまでは、短距離走も長距離走も、腕と足を大きく動かし、しっかりと地面を捉えて蹴ることができれば速く走ることができます。
そのためには、腕と足のタイミングを合わせて地面に力を伝えるという感覚を子どもに教えてあげることが大事。もも上げをしたり、スキップやケンケンなどの練習をするといいでしょう。
中でも「地面を捉える」というのが一番わかりやすい練習は、下記の2つです。
①その場で太ももを上げたままケンケンをする
②太ももを上げて前後に大きく足を振りながらケンケンをして前に進む
②のケンケンは足を振りながら前に進むので少し難しいのですが、これができるようになると、足の速さにつながるでしょう。これらのケンケンの練習は姿勢が崩れやすいので、最初に壁にもたれて姿勢を真っ直ぐにし、太ももをあげた状態から行うのがポイントです。
また、ケンケンなどの地面を捉える練習で重要なのは、足の裏全体で着地すること。速く走るためには地面にフラットに足を着くことが大切だからです。
長距離走の場合は、かかとから着くことが多くなるのですが、その場で姿勢を真っ直ぐにして「足の裏全体で着く」感覚を知っていれば、自然とできるようになるはずです。
高学年になってくると第ニ次成長期に入り足が長くなってくるため、走る時に大きな動きをするだけではバランスが崩れやすくなってしまいます。そのため、速く走るためには、地面を捉えて、足を正確に速く動かす必要があり、切り返す運動が大事になってきます。ケンケンの練習をする際に、左足で3回ケンケンをしたら、右足で3回ケンケンする、というように片足で支えながら切り返したり、速いスキップをするという練習をするとスムーズに走れるようになるでしょう。
速く走るための方法②
「腕の振り方と練習方法」
速く走るためには、正しい腕の振り方を覚えておくのもポイントです。
長距離走、短距離走に関係なく、腕の振り方は、肘を軽く曲げて脇を少し開いて、腕を引く時に閉めること。この感覚を覚えることが大事です。
腕を横に振ると胸が動いてしまいますし、腕を真っ直ぐ振ると肩が後ろになりすぎてしまうので、速く走ることができません。
速く走るための方法③
「骨盤が立っている状態で走ることが大切」
短距離走、長距離走、どちらの場合も、骨盤が立っている状態というのも、速く走るためのポイントです。おへそが前に引っ張られているような感覚が得られるといいでしょう。
ちなみに、骨盤が立っている状態とは、いい姿勢を横から見た時に、耳、肩、骨盤、くるぶしが一直線上になっている状態のことです。
★姿勢・骨盤についての詳細はこちらをチェック
また、頭をできるだけ高い位置にするように意識すると、少しの重心の傾きでいい姿勢で走ることができます。子どもは、脚力が弱かったり、頭が大きく、どうしても体が前傾になりすぎてしまいます。そのため、その場で1、2回ジャンプをして、頭の位置を高くしてから走り出すといいでしょう。
とくに長距離走では、呼吸方法、とりわけ息を吐くことが重要になるため、頭の位置を固定して、首が前に出ないようにして走ることが大事になります。
走る時にいい姿勢を維持するためには、二重跳びの練習がおすすめです。その際に大事なのは、先に挙げたケンケンと同様に足裏全体で着地をすること。そうすると、自然と姿勢がよくなっていきます。
速く走るための方法④
「靴の選び方」
先に述べたように、速く走るためには、足裏全体で着地することが大切。そのためには、靴選びも重要になってきます。
ポイントは、靴の裏を見た時に、内側だけでなく、外側にもアーチがあること。最近の靴は踵が高く、外側にアーチがないと足が前に滑ってしまうからです。くるぶしの前くらい(アーチの部分)で、足裏から足部をフォールドできていることが大事です。
また、柔らかい靴が増えているため、靴が内側に倒れてしまっている子どもが多いように感じます。そうすると、踵の骨の位置がずれ、フラットに地面に着きづらくなってしまいます。子どもは柔らかく脱ぎやすい靴を好みますが、速く走るためには足裏から足部を固定できる靴を選んで、紐をしっかり結びましょう。
柔らかい靴などの影響から、子どもは足首を捻挫しやすいのですが、よほどの痛さでない限り歩くことができてしまうので無理をしがちです。でも、捻挫をしたら必ず休むことです。捻挫をしたまま放置していると、将来、足首が緩くなってしまい、本当は足が速かったのに伸びなかったというケースや、プロの野球選手やサッカー選手の腰や足のケガも、足首の緩さが要因だったいうこともよくあるからです。足首が強くないと速く走ることはできません。捻挫をしたら休むことも、速く走るための秘訣です。
速く走るための方法⑤
「日常生活の中でできること」
日常生活の中では、骨盤が立っている状態や、腹筋や背筋をバランスよく使う機会が多いことが、速く走ることにつながります。椅子が低いと骨盤が寝ている状態になってしまうので、自宅の椅子の高さがお子さんに合っているかを見直してみるといいでしょう。
日頃から骨盤が立っている状態を心がけたうえで、階段を1段飛ばして上ったり、大股で前に歩く・横に歩くといった大きな動きを取り入れていくと、より足が速くなることにつながるでしょう。
実は、走る時のフォームに類似している自転車に乗る姿勢や足の動きもポイントです。自転車のサドルの高さは、骨盤が立っている状態で、両足のつま先が地面にぎりぎり着く程度がベスト。子どもはどんどん成長しているのに、サドルの高さをそのままにしていると、骨盤が立っている状態で自転車に乗れません。日頃から、サドルの高さが合っているかをチェックしましょう。
また、自転車に乗る時に膝を外側に広げていたら、走る時も膝は外側に向いていますし、自転車に乗る時に膝が内側に入っていたら、走る時も膝が内側を向いています。
走る時のきれいなフォームのイメージは、誰もがある程度共通認識として持っているものだと思います。高学年になってくると、きれいな走り方がわかってくると思うので、速い選手の走り方を見ることや真似することで、速く走ることにつながるでしょう。
速く走る練習をすることで得られることは?
実は東京マラソンを走っている人の半数以上が、昔は運動嫌いだったというデータがあります。要は、大人になってから走ることの面白さを知ったり、走ることで自分と向き合っている人が多いということです。子どもは純粋なので、ちょっとしたきっかけで走ることが面白くなったり、好きになると思っています。シンプルな運動だからこそ、走る時の簡単なポイントさえ押さえれば体が動きやすくなり、靴を替えるだけでもタイムが変わることもあるでしょう。
走ることは、誰もが主体者になれるスポーツです。また、一番シンプルでありながら難しくもあります。速く走るための練習を繰り返していくと、タイムや走り方などを含め、客観的に自分を見ることができるようにもなるものです。走ることを、自分を知る・自分と向き合う学習ツールとしても、子どもたちに使ってもらえたらと思います。
「走る練習よりも大切なこととは? 子どもがかけっこで速く走れるようになる秘訣」はこちら