近年言われている、子どもたちの体力・運動能力の低下。そう聞くと、わが子には何かスポーツをさせたいと思うママも多いのではないでしょうか。そこで、幼少期にスポーツに取り組むと、子どもの成長にどのような影響があるのかを、アテネオリンピック1600メートルリレー代表として4位に入賞し、現在は幼児からプロアスリートまで走り方の指導を行っている伊藤友広さんに伺ってきました。
伊藤友広さん
国際陸上競技連盟公認指導者(キッズ・ユース対象)。高校時代に国体(少年の部)400mで優勝。法政大学進学後、アジアジュニア選手権の日本代表に選出され、400m5位、4×400mリレーで優勝し、国体(成年男子の部)400mでも優勝を飾る。アテネオリンピックでは4×400mリレーに出場し、4位入賞を果たす。現在は、元200メートル障害アジア最高記録保持者の秋本真吾氏らとスプリント指導のプロ組織「0.01」を主宰し、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。http://001sprint.com/
子どもが「楽しいからやりたい」と思えるスポーツ選びを
昨年末、スポーツ庁から発表された小中学生の体力テスト(全国体力・運動能力、運動習慣等調査)の結果を見ると、体力合計点は前年度より低下し、中でも小学生男子は、過去最低の記録だったことがわかります。
その要因の一つは、やはり環境ではないでしょうか。今、僕は都内の保育園でかけっこの指導をしているのですが、園庭もなく、小さな体育館程度しかないと、どうしても運動量は限られてしまいますよね。一方、園庭が小さくても、近くに大きな公園があれば、毎日散歩に行ったり、走り回ることができるものです。実際に、後者の保育園の子どもたちのほうが、運動能力が高いと感じています。
また、スポーツの楽しさを知る機会も減っていますよね。それもあって、僕は子どもたちに指導する際は、楽しさをより実感してもらえるように心がけています。陸上は、シンプルな競技だからこそ、足の動かし方を少し変えるだけでも、すぐにかけっこが速くなったり、きれいに走れるようになりますし、自分の体が前に進んでいくような、新しい身体感覚を得ることもできるんです。その感覚は、子どもたちはもちろん、大人でも楽しいと感じるものです。
スポーツにはいろいろな楽しさがあるので、親御さんは、わが子にどんなスポーツをしたいかを聞くよりも、まずは体験させてあげて、本人が「楽しいからやりたい」と思えるスポーツを選択してほしいと思います。
スポーツは成長がわかりやすい。だから自信につながる
僕は幼少期にスポーツをすることで、子どもたちがより自信を持てるようになると思っています。というのも、スポーツは自分が成長したということを身をもって実感できるからです。例えば陸上の場合、走り方のコツをつかめば、必ずタイムが縮んでいきますし、フォームが変わったことも感じるはずです。自分自身で数字と自分の動きの両面から成長を実感できるので、わかりやすい分、より自信につながっていくというわけです。
僕自身は、小・中学生の頃は、陸上ではなく、野球をやっていました。というのも、僕の出身地(秋田県)は、村に信号機が2つしかない田舎(苦笑)。だから、いろいろなスポーツを選べる環境ではなかったんです。でも、野球をやっていたことで、空間を把握する力がついていたので、リレーのバトンパスの時には活かされましたね。
陸上は個人競技なので、陸上だけをずっとやっていると、どうしても自分本位になってしまいがちなのですが、団体競技を経験したことで、協調性も養われたと思います。
期限を決めて取り組めば、やり抜く力がつく
スポーツは思い通りにいかないことも多いですし、失敗や挫折もつきものです。でも、失敗するからこそ積極的に挑戦する力もついていきます。
親御さんは、わが子が試合で失敗したり、落ち込んだ姿を見たりすると、すぐにやめさせようとするかもしれませんよね。でも僕は、期限を決めて取り組んでほしいと思うのです。半年、1年と決めて、その中で目標を設定して一生懸命取り組むことが大事だと。
その中でまた失敗したとしても、子どもたちは失敗を通して学んでいくだろうし、保護者が一緒にその要因を考えたり、フォローしてあげればいいのです。期限を決めて目標にむかって取り組むことで、やり抜く力がつき、それは勉強にも活きると思います。
今、元アスリートの方にお会いする機会も多いのですが、ステキだと感じる方の共通点は、行動力があること。それは、小さい頃からスポーツを通してチャレンジと失敗を繰り返すことで「失敗するかもしれないけれど、とりあえずやってみよう」というマインドが培われたのではないかと感じています。それと、とくにサッカー選手はコミュニケーション能力が高いなと思いますね(笑)。
- この記事のタグ