子どもの自己効力感を高める方法とは?
能力を伸ばす褒め方や接し方

子どもがスポーツに打ち込んでいると、「能力を伸ばしてあげたい」「チャレンジ精神を育みたい」と思う保護者もいるのではないでしょうか。そこで今回は、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人さんに、子どもの能力を伸ばすための方法をお聞きしました。

<教えてくれた人>
鈴木颯人さん

鈴木颯人
スポーツメンタルコーチとして、プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象に、メンタルコーチングのノウハウを伝えるセミナーも開催。

自己効力感とは?子どもにとって大事な理由

自己効力感 大事な理由
子どもの自信に関わる言葉として知られる「自己肯定感」。実は、心理学の中では「自己肯定感」という言葉は存在しないのです。自己肯定感に近い言葉には「自己受容」や「自己効力感」があげられます。

自己受容は、ありのままの自分を受け入れる意味となります。できることだけでなく、できてないことも全て受け入れる気持ちです。人は多かれ少なかれ自分でも認めたくないような感情や特性、境遇、運命などを持っています。それらを否定し、引き受けないことがあります。自己を受容することは、自発的な行動変化の原点となり、他者を受け入れ、良好な対人関係の基盤となります。

自己効力感とは、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識することを指します。「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態のことです。自分はできて当たり前、能力があると信じることができる感覚になります。自己効力感が低いと「どうせ無理」「やっても意味がない」など、ネガティブな状況を作ってしまいがちになってしまいます。そのため、子どもの自己効力感を高めることは大切なのです。また、自己効力感が高いと潜在能力を伸ばすことにもつながるため、スポーツに打ち込んでいる子どもにとってはより必要になるでしょう。

子どもの自己効力感を高める5つの経験

自己効力感を高める5つの経験
自己効力感は、下記の5つの経験が多いほど高めていくことができます。
1 達成経験
自分が達成した・成功したという経験
2 代理経験
自分以外の目指している人の成功体験を観察すること
3 言語的説得
「能力がある」「できる」など、周囲の人からポジティブな言葉をかけられること
4 生理的・情動的高揚
「自分ならできる!」と気分が乗っている状態、調子が上向いている状態
5 想像的体験
成功体験を想像すること

例えば、サッカーを頑張っている子どもには、早い段階で、トップレベルチームの練習や試合を見に連れて行ってあげると、それが代理経験になり、生理的・情動的高揚や想像的体験にもつながりやすいのです。テレビで見るのではなく、高いレベルの本物の体験をさせてあげることで、目標の置き方や努力の仕方が変わり、潜在能力を伸ばしていくことにもつながると言えるでしょう。

大事なのは子どもに期待しないこと

スポーツを頑張っている子どもの保護者は、どうしても期待しがちになってしまうのではないでしょうか。でも、子どもの自己効力感を高めるためには、あえて保護者が子どもに期待しないことが大切です。期待をすることは、よい結果を求めているという意味を含んでいるため、「頑張ったら、いい結果が出ると思うよ」などの言葉につながりやすく、子どもは保護者の期待に応えなければいけないという心理になってしまいます。つまり、プレッシャーになってしまうのです。
また、期待の背景には保護者の不安な気持ちや、「上手くいくかどうかわからないけれど」という言葉が隠れています。子どもに期待することは、保護者が誘導したいゴールがあるとも言えるでしょう。

一方で、保護者が「もっと現実を見なさい」「〇〇くんよりもできていない」など口にし、現実を見せすぎてしまうと、子どもの自己効力感を下げてしまうことにつながってしまいます。

自己効力感を高めるために重要な「ピグマリオン効果」とは?

ピグマリオン効果
子どもの自己効力感を高めるために重要なのは、保護者が子どもの可能性を信じることです。それがよくわかるのが、教育心理学でよく知られている「ピグマリオン効果」です。

1人の先生が2つのクラスを受け持っています。Aクラスは、本当は優秀な子どもたちなのですが、「成績が悪い子たち」と嘘の情報を伝え続けます。一方、Bクラスでは、本当は成績が悪い子どもたちに対し「優秀な子どもたち」と嘘の情報を与えるのです。1年後のテストでは、Aクラスの子は成績が落ちたのに対し、Bクラスの子は成績がアップ。先生が、「この子たちは優秀だ」という前提で接し続けたことで、Bクラスの子どもたちは認めてもらえていると感じて頑張ることができ、成績も上がったのです。この心理効果を「ピグマリオン効果」と呼んでいます。
スポーツでも勉強でも、「あなたはできる」と信じていることを前提にして子どもに接することが、潜在能力を伸ばすことにもつながると言えるでしょう。

失敗経験が子どもの成長スピードを加速させる!

子どもには、できるだけ失敗をさせたくないと思っている保護者もいるかもしれません。でも、小さな失敗の経験こそが子どもを成長させるのです。

子どもは失敗を繰り返すことで、どうすれば上手くいくのか・いかないのかを肌感でわかるようになっていきます。また、失敗をすれば振り返る作業を行うので成長スピードは加速していくのです。それは、スポーツも勉強も同じです。
一方、失敗を経験せずに成功だけを繰り返していると、チャレンジすることをしなくなるため、成長スピードは一気に落ちてしまいます。また、チャレンジをしないので自信もつかないのです。

子どもは調子にのると失敗しやすいものです。だからこそ、保護者が子どもを調子にのらせることが大事なのです。また、子どもが失敗をした時は、それを許し、保護者がそれまでの過程や努力したことを褒めてあげると、よりチャレンジ精神が育まれていくでしょう。

子どものチャレンジ精神を育む方法

子どものチャレンジ精神を育む方法
取り組んだことの過程を褒めると、チャレンジ精神につながるというのは、スタンフォード大学心理学教授ドゥエック氏の実験結果からもわかります。

ある小学校の中学年の子どもたちにパズルの問題を解かせ、「80点、すごいね」など結果を褒めるグループ、「こういう努力した結果だね」など過程を褒めるグループに分けました。その後、難しいテストと簡単なテストを子どもたちに選ばせたところ、結果だけを褒められたグループは簡単なテストを選び、過程を褒められたグループの90%が難しい問題に取り組んだのです。さらに、その後、難しい問題を解かせると、結果だけを褒めたグループの20%が成績が下がったのに対し、過程を褒められたグループの30%は成績がアップしたという結果に。

この科学的な実験を通じて言えるのは、結果を褒められるとプライドを守ろうとする心理が働き、過程を褒められるとチャレンジする行動に出るということです。
実際にサポートしている選手を見ると、ジュニア期に輝かしい結果を残した選手は、結果を褒められているケースが多く、その後、伸び悩んでいる傾向があります。
結果だけを褒められると、プライドが自然とできあがってしまい、そのプライドを守ろうとするあまりにチャレンジしなくなり、成長できず結果が出ないという負のサイクルに陥ってしまうのです。

たとえジュニア期で結果が出なかったとして、保護者や指導者など周りにいる大人たちから過程を褒められてきた子どもは、その後、突然伸びる子も多いように感じます。
スポーツを頑張っている子にとって、もちろん試合や大会の結果は重要です。でも、それだけを重視せずに、たとえ結果が出なかったり、失敗をしても、それまでの過程や努力を褒めてあげることが大切です。

親の生き方が子どもの道しるべに!

子どもは、本当にやりたいことを見つけると、それが最強のモチベーションになり、自己効力感も高まっていきます。そのためにも保護者は、選択肢を増やしてあげるといいでしょう。早い段階で1つのスポーツに絞らず、色々なスポーツを経験させ、海外の景色を見せるなど、子どもの世界観を広げてあげることです。実際に海外に行けなくても、動画サイトなどで色々な世界を見せてあげればいいのです。
また、子どもは色々な経験をすれば、どの分野なら自分の長所が発揮できるかを見つけやすくなるものです。

アスリートたちに競技を始めた理由をたずねた際、「親がやっていたから」と応えた人は、活躍している傾向があります。一方、「親に勧められたから」と応えるアスリートは伸び悩んでいる印象があるのです。
保護者が輝けば、子どもにそれが伝わり、その姿を真似したくなるものです。イキイキとした親の姿を子どもに見せるためにも、本当はやりたかったことなどにチャレンジしてみるといいでしょう。保護者の生き方が子どもにとっての道しるべになるのです。

子どもには無限の可能性があります。「わが子は想像している以上のことを起こしてくれる」―――そんなマインドを保護者が持つと子どもへの接し方が変わり、子どもの自己効力感を高めることにつながっていくでしょう。

取材・文:サカママ編集部 取材協力:鈴木颯人 (スポーツメンタルコーチ) 参考文献:鈴木颯人著『親が変われば、子どもが変わる』(三五館シンシャ)

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