私たちの生活に欠かすことのできないお金の知識。Vol.1では著書『3歳から始める欧米式お金の英才教育』でいま注目の金融コンサルタント・川口幸子さんにお金教育の意義とお金教育を受けた子どもの特長について教えていただきました。そして今回のVol.2では未就学の子どもにはどのようにお金教育を進めるべきか、具体的な実践方法について伺います。
<教えてくれた人>
金融コンサルタント
川口幸子さん
3〜9歳までニューヨークやロンドン、日本などを行き来しながら欧米式のお金の教育を受け、8歳で長期積立分散投資をスタートし、11歳で預金300万円を貯金する。銀行勤務を経て、二児の子育てをしながら活動し、元プロサッカー選手の夫と経営している会社もあわせ、現在約1,500名の顧客を抱えている。著書に『子どもの視野が驚くほど広がる! 3歳から始める欧米式お金の英才教育』。2022年1月に開催された資産運用EXPOで子どものお金教育について講演。
お金教育を始めるのは3歳から
親もお金に関する知識の習得を!
「現代の子どもたちは、物心がついた頃から親がお金を使う様子を目にし、社会のシステムとして何をするにもお金が必要なことを自然と認識しています。そこで、私が家庭でのお金教育のスタート時期として最適と考えるのは、成長の差があり一概には言えませんが、『なぜ〜なの?』『それは何?』という好奇心が旺盛になる『なぜなに期』の始まる3歳頃です。一緒に買い物に行った時などに、お金に関する質問が出る機会も増えてくるのではないでしょうか。子どもの知りたいという欲求を満足させるチャンスを逃さないようにしたいですね」
ただし、その大前提として、親がお金に関する知識をきちんと習得している必要があると川口さんは言います。
「お金の価値はもちろん、インフレや株式、債権といった言葉の意味、複利と単利の違い、クレジットカードや電子マネーの仕組みについてなど、親が基本的なお金の知識をきちんと理解しておきたいですね。それから子どもの年齢にあった方法を実践していくことをおすすめします」
未就学児におすすめの「お金教育」
5つの方法
1.お小遣いを交渉で決める
「まずはお小遣いという存在について教えてあげましょう。たとえば、『このゼリーは50円だよ』『消しゴムは100円だよ』というように子どもに身近なものを例にあげ、それらを手に入れるためにお小遣いがあることを説明します」
子どもにお小遣いについて説明をして興味を示しているようであれば、お小遣いを始めてみるのがいいようです。また、日本の社会では年功序列制度が一般的なので、お小遣いの金額も「〇歳だから×円」という年齢に合わせた方法がわかりやすくお小遣い制を始めやすいといわれていますが、川口さんがすすめるのは欧米社会の成果主義です。
「『〇〇に使いたいから、×日までに△△円ほしい。そのために□□をする』というように、目的や金額、そのための手段を親に交渉させることで、頑張ればたくさんお金をもらえるチャンスがあるとわかり、子どものやる気にもつながります。また、お金が足りない場合には、我慢して貯めることや工夫して使うことも身につくでしょう」
2.貯金箱にお金を入れる癖をつける
「当たり前のことですが、いきなり『貯金しなさい』と言っても、子どもには意味も価値もわかりません。重要なのは、お金が貯まることを子ども自身が楽しいと感じること。親にほめられることでお金を貯めることはよい習慣なんだと思うことです。そこでおすすめの方法が、お金が貯まっていく様子が目に見える透明なビンの貯金箱を使うことです。シールを貼ったり絵を描いたり、好きにアレンジするのもいいですね」
さらに川口さんが提案するのは、3種類の貯金箱の使い分けです。
「1つめはいま使ってもいい『じぶんのため用』、2つめはパパ・ママなど誰かのために貯めておく『だれかのため用』、3つめは将来欲しいものを買うために貯めておく『将来のため用』です。この3つに分けることで、計画に合わせてお金を分配するという考えを身につけることができます。とくに私が大切だと思うのは『だれかのため用』です。たとえば『ママの誕生日にお花を買ってあげたら喜んでもらえた』などお金を使う喜びも得られますし、後ほど寄付について説明しますが、自分のお金が社会の誰かの役に立つという経験にも結びつきます。分け方については、パパ・ママと話しながらできるといいでしょう」
3.ワンランク上のお店やさんごっこをする
「幼少期に私が欧米で実体験したことですが、お小遣いが足りないときやボランティアの資金を集めるとき、大人にも手伝ってもらい、自宅前でジュースの販売をしたことがありました。単に売るだけではなく、売れるためにはどんなジュースがいいのかを考えたり、宣伝をしたり。『ものを売る→喜ばれる→お金を受け取る』という体験は、お金を大切に扱うための貴重な経験のひとつになります。日本でも幼稚園や保育園、そして家庭でもお店やさんごっこは人気の遊びですが、時にはいつもよりも時間をかけて、『どんなお店がいい?』『看板はどんなデザインにする?』と親と子どもが一緒になり、ワンランク上のお店やさんごっこを準備してやってみることをおすすめします」
このとき、売る側・買う側、どちらの体験も必要だと川口さんはいいます。
「最大のポイントは、お金と引き換えに品物を『売る』『買う』体験をすることです。私もお友だちとディスカッションして、意見をワイワイ言って売り手の意見、買い手の意見を言う場を幼少期に体験しました。子どもには作り物のお金でも丁寧に扱うことを教え、品物も大事に扱わせましょう。遊び終えた後に、嬉しかったことや楽しかったことを話し合うとさらに学びが深まります。ちなみにイギリスでは、小学校低学年時に、『商品が壊れたらどうなるのか?』『返品や交換はいつまで可能か?』などの交渉術を身につける賢い消費者になるためのレッスンもあるんですよ」
4.親子一緒に寄付をしに行く
「世の中には、お金が足りている人と足りていない人が存在していることを子どもに教え、お金の価値に気づけるような体験をさせてあげましょう。たとえば、学校に行けない子どもや、1日1食しかご飯を食べられない人がいることを話したり、絵本を読んで聞かせたりするのもいいでしょう。そして1円でもいいので、子ども自身が自分のお小遣いからその人たちのために寄付をするアクションを経験させます。自分の存在が世界に役に立つことを知り、誰かを助けるという責任感や優しさも育むことができます」
5.おつかいに行かせる
「自立心が芽生え始める小学校入学前の時期が、おつかいデビューに最適だと私は考えます。おつかいはお金の価値や使い方を体で知る体験だけではありません。おつかいに行くことで、ひとりで家を出て社会とつながる勇気や挑戦する心を養うことができ、教育の一環としてもとても有効です」
親が少し距離を置きつつ見守り、まずはスーパーや小売店の中でカゴを持たせてみたり、家に近い距離の場所から始めるなど、安全に注意して始めてみるといいでしょう。
「お金について理解するのは未就学児にはまだ早い」とつい思いがちですが、「まずは楽しくお金を貯めることや使うことを経験させ、興味をもたせることが大切」と川口さん。また、寄付やおつかいの例にもあったように、お金教育が、子どもが社会の一員として自分の存在価値を認識する貴重な一歩にもなるという、自己肯定感の育成に一役買うこともわかりました。私たち親はお金教育の方法についてしっかり理解し、子どもが自分で考えて行動するように導き、タイミングを逃さずにほめてあげられるといいですね。
次回vol.3では、小学生におすすめのお金教育について、引き続き川口さんに教えていただきます。
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イラスト/Aikoberry 取材・文/鈴木志野 監修/HugMug編集部