子どもがスポーツ中に心停止したら…。 覚えておきたい救命処置とAEDの使い方

子どもがスポーツ中に心停止したら。覚えておきたい救命処置とAEDの使い方

万が一、子どもがスポーツ活動中に心停止になったら、どうすればいいかを知っていますか?心停止が起きたときの対処法やAEDの使い方、保護者や子どもも参加できる救命救急講習会について関西医療大学保健医療学部教授の古家信介先生にお聞きしました。

<教えてくれた人>
古家信介さん
古家信介
関西医療大学保健医療学部教授、小児科医・救急医・産業医。JSPO認定スポーツドクター、JFAスポーツ救命部会員、大阪府サッカー協会医学委員、一般社団法人 日本アスリートライフサポート協会代表理事。

スポーツ事故の中でも救命処置が重要な「心停止」

心停止とは、突然、心臓の働きが停止してしまうこと。心臓のポンプ機能が失われ、血液を送り出すことができなくなる状態です。
心停止は1分処置が遅れるだけで救命率が約10%下がると言われ、救命処置が遅れると後遺症で苦しむことになるため、スポーツ事故の中でもとくに救命処置が重要になります。通常、Jリーグなどでは、試合中に選手がケガをしたり倒れたりした場合、審判が試合を止めない限り、チームドクターはフィールドに入ってはいけないことになっているのです。けれど、相手選手などとの接触なく倒れたときは、心停止に陥っている可能性があるため、審判の指示を待たずにチームドクターが処置を行ってもいいことになっています。それほど1秒の無駄も許されない状況なのです。

子どもの心臓が急に止まることは、想像しにくいかもしれません。滅多に起こることではないものの、運動中に子どもが心停止を起こしてしまうことはあり、日本スポーツ振興センターが公開している学校事故のデータベース(平成17年度~令和4年度)によると、学校で運動中に「心臓系突然死」で亡くなったのは152人、そのうちの競技種目を見ると、陸上が36人、バスケットボールが29人、サッカーが21人と記録されています。

※出典:独立行政法人日本スポーツ振興センター 学校等事故事例検索データベース

心停止になったときの救命処置とは?

心肺停止時の措置
練習や試合などスポーツ活動中に他の選手と接触がなく、急に子どもがバタッと倒れてしまったら、心停止を疑いましょう。倒れた子どものもとへ即座にかけより、反応がなければ救急車とAED(自動体外式除細動器)を依頼します。呼吸が確認できなければ、すぐに心肺蘇生を開始することが重要です。

心肺蘇生とは、胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返すことです。胸骨圧迫は、胸の中央部分を胸の1/3程が下がるくらいの強さで「強く、早く、絶え間なく」押すことが大事。心肺蘇生とAEDによる電気ショック(AEDの使い方は下記参照)を救急隊が到着するまで行いましょう。胸骨圧迫とAEDを組み合わせることで救命率は4倍に上がると言われています。
なお、人工呼吸は、感染予防の観点から大人は省略可能であり、子どもの場合は訓練を受けている家族やマウスピースがある場合は行うべきとされています。

設置場所は? 使い方は? AEDについて知っておこう!

AEDの設置場所と使い方
AEDは、Automated External Defibrillatorの頭文字をとったもので、自動体外式除細動器のこと。心臓がけいれんを起こし血液を送り出すためのポンプ機能を失ったときに、電気ショックを与えて心臓を正常なリズムに戻すための医療機器です。「除細動」とは心臓がけいれんした状態を「取り除く」ことを差し、自動でAED が心電図の解析を行ってくれるので、必要な場合にしか電気は流れないようになっています。

AEDの設置場所

街のあちこちで、AEDを目にすることもあるのではないでしょうか。AEDは公共施設や商業施設、学校やスポーツ施設など人が多く集まる場所に設置されています。国内には約69万台ものAEDが設置され、日本はAED大国と言われているにも関わらず、その使用率はわずか4%と低いのが現状です。

AEDは誰でも使用できる!

AEDの使用は大人も、子どもでも使用可能です。かつては医療従事者や救急隊しか使えなかったものの、2004年7月から一般市民でも使用できるようになっています。2002年に高円宮さまがスポーツ中に心室細動(心臓のけいれん)を起こし、亡くなられたことをきっかけに、国内でAED普及活動が始まったと言われています。この20年間で約8,000人もの命がその場に居合わせた人によって救われていることがわかっています。
※参考:AED20周年記念企画実行委員会(総務省消防庁: 令和5年版 救急救助の現況:救急編)

AEDの使い方

①ふたを開ける
AEDはふたを開けると自動で電源が入るものと、電源ボタンを自分で押すタイプがあります。電源が入ると自動で音声ガイドが流れるので、アナウンスの通りに行動しましょう。

②パッドを貼る
基本は胸の右上と左下に貼ります。未就学児など身体が小さくパッドが重なり合ってしまう場合は胸と背中に、心臓を挟み込むように貼ります。一度パッドを貼ったら、救急隊に引き継ぐまではパッドを剝がさないことが重要です。

③ショックボタンを押す
心電図の解析がはじまるアナウンスが流れたら傷病者から離れ、「電気ショックが必要です」とアナウンスが流れたら、感電しないように傷病者から離れた位置でショックボタンを押しましょう。このときに周囲の方も傷病者に触れていないかを確認することがとても大事です。

救命救急講習会を受けて普段から準備を!

救命救急講習会
救命処置の方法は普段から備えていないと、もしものときに慌ててしまうものです。救命救急の講習会は消防庁や日本赤十字社、日本サッカー協会などで行っているので、一度受けてみるといいでしょう。

日本サッカー協会が実施する2つの講習会

日本サッカー協会では、2つの救命救急講習会を実施しています。保護者や指導者が参加できる「スポーツ救命ライセンス講習会」は、心停止や脳しんとう、熱中症、アナフィラキシーなどについて学べます。所要時間は約5時間、AEDの使用方法や搬送の手順が学べる実技もあります。
小学生から参加できるのが約2時間の「JFA+PUSH コース」。アニメ動画を見ながら楽しく学べ、心臓マッサージの基礎やAED の使い方をわかりやすく教えてくれます。

参加してみた感想は?

スポーツ救命ライセンス講習会に参加した今府真樹さんに、感想をお聞きしました。
「息子がサッカーを習っているのですが、付き添いをしながら、何かあったときに見守っている親が知識を持って行動できれば、スポーツの現場はより安全になり、子どもたちも安心してプレーできるのではないかと思っていたんです。そんなときに、『スポーツ救命ライセンス講習会』を知り、思い切って参加しました。最初は5時間もの講習についていけるか不安でしたが、現役医師の講師の方たちの座学や実技指導がとてもわかりやすく、サッカー現場で多い熱中症や心停止、脳しんとうについてもしっかりと学ぶことができました。中でも一番時間を使って教えてもらえたのが、AED の使い方。使用後の処置などもわかり、理解が深まりました。子どもたちが安心安全にサッカーができる環境をつくるためにも、正しい知識を持つことが大切だと改めて感じました」

スポーツ事故は災害と同じだと捉え、準備しておくことが大事

心停止は、AED があり、即座に対応すれば、助かるケースも多いものです。子どもたちのスポーツ現場にもAED を常備し、AED を使える人がいることが大切です。練習や試合を行う場所には、どこにAEDがあるかを確認しておきましょう。もしも敷地内に設置がない場合は、近隣の一番近いAED設置場所を把握しておくと安心です。

スポーツ事故は、思ってもいないときに起こることがほとんど。災害と同じだと捉え、いざというときのために準備をしておくことが大事です。先に述べた救命救急講習会に参加するなど日頃から知識と理解を深め、スポーツ事故に関する情報に対してアンテナを張っておくことです。日本スポーツ振興センターなどのWEBサイトにはスポーツ事故の対応法なども載っているので、印刷して子どもが所属しているチームで共有しておくといいでしょう。

※こちらよりチェック:日本スポーツ振興センター

取材・文:サカママ編集部 取材協力:古家信介(関西医療大学保健医療学部教授、小児科医・救急医・産業医)

この記事のタグ

あわせて読みたい

前へ
次へ

新着記事

前へ
次へ