風邪やインフルエンザが流行りだすと「免疫力を高めなければ!」と思う親御さんもいるのではないでしょうか?そもそも免疫力とはどういったものなのか、免疫力が低下してしまう理由などを、獨協医科大学医学部の枝 伸彦先生に伺いました。
<教えてくれた人>
枝 伸彦さん
獨協医科大学 基本医学 基盤教育部門(健康スポーツ科学)講師
免疫力とは?2種類の免疫
「免疫」や「免疫力」の意味をご存知ですか?
そもそも「免疫」とは、体外から入ってきた細菌やウイルスなどの異物、または体内に発生する老廃物や病的細胞を取り除くための自己防衛システムです。
免疫は、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」の2つに分けられます。自然免疫とは、生まれた時から身体に備わっている免疫のこと。獲得免疫は後天的に得られるもので、身体の中に病原体が侵入すると、それを認識して抗体をつくり出し、次にその病原体が入ってきた時に効率的に攻撃する働きを持っています。ちなみに、ワクチンは獲得免疫の仕組みを利用したものです。1度抗体がつくられると身体の中で一定期間記憶されるので、例えばインフルエンザワクチンを接種しておけば、獲得免疫が反応して抗体をつくり出すため、インフルエンザにかかりにくくなったり、感染しても軽症で済む場合があるということです。
今の子どもたちは免疫力が低下している!?
子どもは、大人に比べて病原体に感染した経験が少ないため、獲得免疫が未熟です。とくに3歳頃までは獲得免疫が低いので、いろいろなウイルスや菌にさらされながら免疫を獲得して適応していくことが必要です。けれど、現代は昔より衛生面がよくなり、清潔な環境での生活になっています。さらに親御さんが過度に衛生面を意識して除菌や殺菌をしているケースも多いのではないでしょうか。科学的に明らかになっているわけではないのですが、今の子どもたちは菌に触れる機会が減っていることから、かつてよりも免疫力が下がっている可能性が危惧されています。
さらに、国内では2020年から感染が拡大したコロナウイルスへの対策も、子どもの免疫力低下に影響しているのではないでしょうか。
というのも、コロナ禍で子どもたちは外出や運動する機会が減りましたよね。また、マスクをしての運動は、呼吸がしづらくなってしまうため負荷がかかり、運動量そのものは減っていたと思います。
実は、免疫力と運動は関係しています。適度な運動は、免疫細胞の生成や機能を活性化させ、免疫力を高めることがわかっています。
コロナ禍で子どもたちは運動不足に加え、マスクでの生活、さらにアルコール消毒をして、今まで以上に衛生面に気を付けるようになり、よりウイルスに触れる機会が減ってしまったために、免疫力の低下が加速したように感じています。
免疫力が低下してしまう原因は?
スポーツの大きな大会や大事なテストの前に、お子さんが風邪を引いてしまったということはないでしょうか?
免疫力が低下する要因の1つには、ストレスがあります。過度なストレス下では、自律神経のバランスが崩れたり、ストレスホルモンの分泌が増加してしまうため、免疫機能が低下してしまうといわれています。ですので、テスト前などに風邪を引いてしまうのは、精神的なストレスに睡眠不足や疲労も加わって、免疫力が低下してしまうためだと言えるでしょう。
実際に、精神的ストレスと免疫の関係について大学生を対象に調べた研究では、勉強によるストレスがかかる試験期間中は、通常よりも免疫物質の分泌量が低下していたと報告されています。慢性的なストレスの方が免疫低下の状態が長く続き、その分、感染症への罹患リスクが増大するため、注意が必要です。ですので、仕事や育児などで慢性的にストレスを抱えている親御さんは、免疫力が低下している可能性があるかもしれません。
なお、ストレスには色々あり、必ずしも子どもにとってストレスは悪いものではないということです。身体の内部環境が乱れるとストレス状態になってしまうのですが、人間の身体はそれを治そうとするため、結果、ストレスが身体にとっていい影響に働く場合もありますし、適度なストレスは成長のためにも必要だと言われています。
過度な運動が免疫力低下につながることも!
また、疲労も免疫力に影響を及ぼします。疲れが溜まってくると免疫細胞や免疫物質をつくり出す力も弱くなってしまうのです。
先に、運動は免疫と関係していると述べましたが、適度な運動は免疫力向上のためにも大切です。1回あたり30分~60分程度の「ややきつい」くらいの運動を週2~3回行うことで免疫力は高まると言われています。けれど、それを超える過度な運動やトレーニングは疲労につながってしまうので、実は運動をやりすぎてしまうと免疫力が低下してしまう場合もあるのです。とくに激しい運動を継続して行っていると、免疫機能を低下させてしまうことがあると言われています。アスリートのようなトレーニングだけでなく、子どもでもマラソンや長時間の運動で免疫低下を起こす危険性は考えられます。また、例えばサッカーや野球などスポーツを習っているお子さんで、チームを掛け持ちしているなどで毎日ハードな練習や試合を積み重ねていると、疲労が蓄積してしまい、免疫力が低下してしまうこともあるでしょう。
睡眠も免疫力と関係しています。入眠するとそのまま深い眠りのノンレム睡眠に入り、その後、90分周期で浅い眠りのレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返します。睡眠直後のノンレム睡眠の際に、成長ホルモンが分泌されます。子どもにとって成長ホルモンは、身体の成長や脳の発達にとって大事ですが、さらに成長ホルモンは、細胞の修復や再生、疲労を回復させたり、代謝を調節するなど免疫力と関係していると言われています。睡眠不足になってしまうと、成長ホルモンの分泌が悪くなってしまうため、免疫力に影響を及ぼす場合もあるでしょう。
この他、日々の食事も免疫力に関わってきます。栄養バランスが偏った食事は、免疫機能に影響を及ぼしますし、中でもビタミンAやビタミンC、ビタミンDは免疫細胞の働きに影響するため、これらが不足してしまうと免疫力の低下につながってしまうこともあるでしょう。
薬と免疫の関係
子どもが風邪をひいたかなと思った時、すぐに薬を飲ませていませんか?
大人の場合は、薬に頼ってでも頑張らないといけない時があるかもしれません。
でも、子どもの免疫を考えると、薬にすぐに頼るのではなく、自分の免疫でウイルスと戦わせることも大事だと思います。というのも、風邪などで発熱するのは、免疫細胞を活性化させて、体を治癒させようとする必要な反応だからです。
もちろん医師の判断に従うことが大前提で、場合によっては薬を使って治すことも大事です。親御さんとしては心配にはなるとは思うのですが、薬だけに頼らず、しっかり休養をとって子ども自身の免疫で治していくことも大切なのではないでしょうか。
いかがでしたか?前編では、免疫についてや免疫力が低下してしまう要因などをお届けしました。後編では、免疫力を高めるための具体的な方法をご紹介します。