教育評論家・親野智可等さんに聞く。子どもの“好き”を育てる大切さと、親としてできること

教育評論家・親野智可等さんに聞く。子どもの“好き”を育てる大切さと、親としてできること

「わが子には、好きなことを思いきり楽しみながら成長してほしい」と願う一方で、「本当に好きなことってどうやって見つけていくの?」と迷うこともあるのではないでしょうか。今回は、元小学校教師で教育評論家・親野智可等さんに、子どもの“好き”を育てることの大切さと、そのために親としてサポートできることや関わり方について伺いました。

<教えてくれた人>
教育評論家・親野智可等さん
親野智可等先生
元小学校教師。現在は教育評論家として、講演活動やメディア出演、子育て支援など幅広く活躍。著書に『親の言葉100』(グラフィック社)、『反抗期まるごと解決BOOK』(日東書院本社)、『子育て365日』(ダイヤモンド社)などベストセラー多数。SNSでは、日々の子育てに役立つ知恵やヒントを発信し、多くの共感を集めている。
公式HP:https://www.oyaryoku.jp/

子どもたちの “好き”の芽は、「観察」と「お試し」で育つ

「まず親としてできることは、日常のなかでわが子をよく観察することです。たとえば、頼まれていないのに絵を描いている。暇さえあれば図鑑を眺めている。そんな様子が見られたら、それは立派な“好きの芽”かもしれません。絵を描くことが好きだと気づいたら、それをちょっと応援してあげるだけでいいんです。たとえば、色数の多いクレヨンや大きな紙を用意してみる。描いた絵を飾ってあげるのも効果的です。そんな親御さんのささやかな後押しが、子どもたちの夢中を深めていきます」
教育評論家・親野智可等さんに聞く。子どもの“好き”を育てる大切さと、親としてできること
「とはいえ、観察だけでは出合うことができない “隠れた好き”もあります。だからこそ、親御さんがしっかりとアンテナを張り、たくさんのお試し体験を提案してみることが大切です。

書店に行けば、折り紙やあやとりの本、化石発掘キットなど、子どもたちが興味を持ちそうな本がたくさんあります。また、児童館のワークショップや無料体験イベントなどに誘ってみるのもいいでしょう。子どもたちは自分から情報を取りにいくのが難しいので、親御さんがその橋渡しをしてあげられるといいですね」

すぐやめる=悪いこと? そんな思い込みを手放そう

いろいろ試すなかで、興味が広がらないもの、苦手なものをすぐにやめてしまう。そんな様子を見て、「もしかしたら“やめ癖”がつくのでは?」と不安になる親御さんもいるかもしれません。

「“やめ癖”というのは、根拠のない迷信です。子どもたちはいろんな経験を重ねるなかで、引き出しを増やしていきます。その過程で、自分の“好き”にだんだん近づいていけばいいんです。『せっかく始めたんだから、続けてほしい』という親御さんの気持ちもよく分かりますが、『わが子には合わなかったかな』『ちょっと辛そうだな』と感じたら、潔く見切りをつけることも大切。

無理に続けさせると、『こんなに嫌なのに、やめられない』という状態が続きます。すると、『自分の人生は自分で変えられない』という自己無力感が積もってしまい、大人になってからも『どうせ私なんか…』と自分を否定する気持ちを抱え続ける可能性が大いにあります」
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さらに親野さんは、“誰かにやらされている”状態での努力は、本質的な力にはなりにくいと指摘します。

「努力や根性というのは、自分自身が『これをやりたい』『もっと極めたい』『ここで優勝したい』『この資格を取りたい』といった、自発的な目標に向かっているときにこそ、育まれるもの。もちろん、その過程では困難や壁にぶつかることもあります。でも、自分の意思で目標を立てて挑んでいるからこそ、乗り越えたときに得られる達成感は大きく、たとえうまくいかなかったとしても、『自分はがんばった』という努力そのものへの自己肯定感が育まれます。

ひとつ注意してほしいのが、“好き”と“才能”は必ずしも一致しないということ。たとえ才能があっても、自分が好きでなければ続けられません。無理に続けさせれば、後々しんどくなるだけです」

「夢中になる体験」が、子どもの脳と心を育てる

「子どもたちが好きなことに夢中になって、幸せを感じているときって、本当にすごいんです。ひとつは、子どもの脳が驚くほど活性化すること。脳内に血流が増え、酸素がたっぷりと送り込まれ、幸福ホルモンであるドーパミンが放出される。すると、情報のやりとりを担うシナプスの結びつきが強まり、脳の処理能力や記憶力、集中力、表現力が高まりやすくなるんです」

親野さんは、夢中になる体験が脳の発達にもよい影響を与えることを、脳科学的な視点から教えてくれました。

「脳が育つ状態にあるときにこそ、学習の吸収力も高まり、いわゆる地頭のよさにつながっていきます。また、好きなことに打ち込むことで育まれるのが、”非認知能力”。数字には表れにくい『生きる力』であり、たとえば、『やり遂げる力』『工夫する力』『コミュニケーション力』などが含まれます」
教育評論家・親野智可等さんに聞く。子どもの“好き”を育てる大切さと、親としてできること
「砂遊びひとつでも、作り方や使う道具を工夫したり、友だちや家族に協力してもらったり、自分なりの完成を目指していきます。そうした経験の積み重ねが、非認知能力を育てていくんです。小さい頃から“好き”に夢中になる経験を重ねてきた子は、大人になってからも、自分でやりたいことを見つけ、行動できる“自己実現力”を身につけていきます」

「自分の“好き”を応援してくれる大人に対して、自然と『応援してくれてありがとう』と愛情を感じます。親子関係にもよい影響をもたらしますので、ぜひ応援をしていただきたいと思います。そうした温かい関係のなかでこそ、子どもたちは安心して挑戦できますし、人生を前向きに歩んでいけるんです。安心して過ごせることで、いろんなことに集中できるようになり、勉強も自然と伸びていく。毎朝起きるのが楽しみになるような、生きる喜びを感じられる日々へとつながっていきます」

自分で決める経験が、人生の幸福度を高める

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また、小さい頃から“自己決定”を重ねてきた人ほど、幸福度が高いという研究結果もあるそうです。
「子どもは自分で情報を集める機会が限られているので、親御さんがいろいろな情報を集めて『こういう習い事があるよ』と“紹介”をすることは大事なことだと思います。また、もちろん『あなたに向いてると思う』と親御さんの考えを伝えることもアリです。でも、その上でちゃんと話し合って、決定については最大限子ども自身の意思を尊重してほしいと思います。部活動や進路などについても同様。親御さんの考えを一方的に伝えるのではなく、子どもたちの意見にも耳を傾ける姿勢が大切だと思います」

子どもが“好き”を見つけて夢中になることは、脳の発達にいいだけでなく、自己肯定感や生きる喜びにもつながる大切な経験です。親としてできることは、その“好き”の芽に気づき、応援し、そっと背中を押してあげること。ときには対話を重ねながら、お子さんの決定を見守る。そんな関わりが、子どもを前向きに育ててくれるはずです。

イラスト:mycoro 取材・文:阿部 里歩

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