大人になってみて、子どもに性の話を伝えたいけれど、どうしたらいいかさっぱり分からず、不安を抱えている人も多いのでは。性教育の心得を覚えておけば、いざというときも焦らず対処できるはずです。ここでは、大人が知っておくべき性教育の基本について、性教育専門サイト「命育」で代表を務める、宮原由紀さんに教えていただきます。
<教えてくれた人>
宮原由紀さん
性教育専門サイト「命育(めいいく)」代表。大手3社で15年以上メディア制作や広告営業に携わったのち、独立し仲間とともに「命育」を立ち上げる。「命育」では、幼児〜中高生まで年齢に応じた性教育のノウハウを、医師専門家協力のもと、分かりやすくポジティブに発信している。1女2男、3児の母。
https://meiiku.com/
<性教育の基本 その1>
性教育はできるだけ早くから始めよう。おすすめは幼児期から
子どもへの性教育、一体何歳から始めるべき?と考えている方も多いのではないのでしょうか。宮原さんは、「性教育はできるだけ早く始めるのがベター。おすすめは幼児期(3歳〜就学前)からです」と話します。性教育の第一歩として、胸やおしりなど体の水着で隠れる部分と口を指す『プライベートゾーン』について教えることがありますが、幼児期からでも伝えられる、性教育の大切な土台があります。
「子どもも大人も関係なく、性の知識は生きるうえでとても大切なこと。性の知識というのは、妊娠や出産、避妊、性交にまつわることだけではなく、男女の体の違い、防犯やネットリテラシー、ジェンダー、性的同意などさまざまなことにつながっていきます。まず、小さな子どもに伝えられるのは、『あなたの体は大切なもので、あなただけのものだよ』ということです」
「小さな頃から 『自分の体と同じくらい、誰かの体も大切』ということを知っていたら、他人を尊重することにもつながりますよね。さらに、体の仕組みや個性を理解していることで、成長による体の変化も安心して迎えられます」
なぜ、小さい頃からがいいの?
「近年、SNSなどを通じた性暴力も問題視されています。性教育の土台ができていれば、自分の体を尊重してくれない人が現れたときに、すぐに違和感を感じることができます。思春期以降、わが子が性被害を受けていた、加害者だった……というトラブルの相談も多く寄せられます。また、大人と性についての会話をしていたという経験は、子どもが困ったときに安心して頼れる環境づくりにもつながります」
とはいえ、何歳からスタートしても大丈夫!
「先述した通り、性教育は幼児期などできるだけ早めからがおすすめ。ですが、何歳でも遅すぎることはありません。子どもの成長や子どもが持った疑問に合わせて、きちんと伝えられることが一番重要なこと。子どもに質問されたときや、保護者の方が思い立ったときからでも大丈夫です」
<性教育の基本 その2>
専門知識をたくさん身につける必要はなし!
絵本などを活用し、親子で一緒に学ぼう
真面目な方ほど、専門書を読み漁り、正しい知識をたくさん身につけようと頑張りすぎてしまうと宮原さん。
「その姿勢はもちろん素晴らしいですが、保護者の方が性教育の専門家になる必要はありません。肩の力を抜いて大丈夫ですよ。何より大切なことは、子どもが疑問を持ったときに、あなたの言葉で伝えること。分からないことがあれば、『一緒に調べてみよう』『絵本を読んでみよう』と、子どもと一緒に学ぶ意識を心がけましょう」
たくさん調べて勉強してからではなくても、まずは知っていることや話しやすいテーマから話してみるのもよいそうです。
<性教育の基本 その3>
性に関する子どもからの質問には、動揺せずに落ち着いて対応しよう
幼児期〜児童期(小学校低学年〜中学年)くらいの子どもから、よくある質問として挙げられるのは「赤ちゃんって、どこから来るの?」という疑問。ついついはぐらかしてしまいたくなる質問にも、ごまかさず、嘘をつかないことが大切だそうです。
「子どもの疑問をよく聞いて、それに関する的確な回答を伝えるだけです。よく聞いてみると、『赤ちゃんってどうやってできるの?』や『赤ちゃんはどこから出てくるの?』と、質問の種類もいろいろ。体の仕組みが描かれた絵本を見ながら、説明するのもいいと思います」
「また、性教育に抵抗がある理由として、“自分の性のことを聞かれてしまうのではないか?と不安で、話ができない”という方もいます。もちろん、保護者自身のプライバシーをしっかり守ることも大切です。プライベートな質問に答えたくない場合は、『それは言いたくないよ』と伝えましょう」
<性教育の基本 その4>
やってしまいがちなNG行動に気をつけよう
体の個性やセクシャリティに関することは、性教育の一環。そして、大切なプライベートゾーンに勝手に立ち入らないことは、たとえ家族間でも同じです。後述するNG行動を見ながら、普段の言動を振り返ってみましょう。
【NG行動①】自分の外見について否定する
「これは悪気なく、ついやってしまっている人も多いのではないでしょうか。誰かのことではなく、自分自身のことだからいくら否定してもいいや、ということではありません。自分のことを否定したつもりが、太っていることはダメ、白髪はダメ、シミやシワがあるのはダメと、いつの間にか子どもにマイナスなボディイメージが染み付いてしまいます」
【NG行動②】「女の子(男の子)なんだから○○しなさい」と、注意する
「ついつい『女の子なんだから落ち着いて座りなさい』『男の子なんだから泣いちゃダメ』など、性別を押し付けてしまうことはありませんか? おもちゃや持ち物、洋服、習いごとなど、子どもが何かを選ぶときも同様です。性別によって行動が制限されると思ってしまったら、生きるうえで選択肢が少なくなってしまいます。子どもの価値観を尊重するためにも、何気ない一言に気をつけましょう」
【NG行動③】プライベートゾーンに許可なく触る
「じゃれあいのつもりでも、プライベートゾーンは家族であっても勝手に触ってはいけないもの。反対に、子どもからの甘えでプライベートゾーンを触られるけれど、『わが子だし、拒否したら冷たいかも』と、受け入れてしまう方も多いそう。『ここはママ(パパ)の大事なところだから、勝手に触らないでね。あなたもイヤなときはちゃんと言ってもいいんだよ』と伝えるきっかけにしてください」
まずは「あなたの体はとっても大切」と伝えることが性教育の第一歩。そう思ったら、なんだか少し気が楽になりますよね。次回以降の記事では、幼児期、そして児童期(小学校低学年〜中学年)それぞれの年齢に応じた性教育について、宮原さんに教えていただきます。
さらに知りたい方へ
「子どもと性の話、はじめませんか? からだ・性・防犯・ネットリテラシーの伝え方」
今回お話を伺った宮原さんの著書。性の疑問や興味からくる子どもからの質問への回答や、正しい知識をどう伝えるか、保護者の方のお悩みをわかりやすく解決する一冊。幼児期(3歳~就学前)、児童期(小学校低学年~中学年)、思春期(小学校高学年~高校生)に分けて、子どもの年齢に応じて伝えておきたい性の知識を、具体的な伝え方とともに紹介。産婦人科医・高橋幸子さんが監修を手がける。(CCCメディアハウス出版刊)
専門家に聞く、「小さな子どもへ性の話の伝え方」はこちら
イラスト:髙田知香 編集・文:阿部里歩 監修:Hug Mug編集部