「10歳の壁」とは?子どもへの接し方が難しい時期に、親が心がけておくこと

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<教えてくれた人>
鈴木邦明さん

帝京平成大学人文社会学部児童学科准教授の鈴木邦明さん

帝京平成大学人文社会学部児童学科准教授。神奈川県、埼玉県の公立小学校に22年勤めた後、短大、大学での教員養成、保育者養成に移り、現在に至る。現在は、大学での講義を中心に、保護者向けに子育て・教育、教員向けに授業方法・学級経営などのテーマで執筆、講演など幅広く活躍中。


「10歳の壁」にぶつかってしまう原因

10歳の壁にぶつかる原因

「10歳の壁」「小4の壁」という言葉を聞いたことがありますか?小学校中学年の時期に、学習面や生活面、心身の発達面においてつまずくことを「10歳の壁」などと呼ばれています。

「10歳の壁」は、学習が原因となることが多いようです。というのも小学校3~4年生あたりから学習難易度が急に上がるからです。特に算数は、それまでは具体物が対象だったものの、抽象的な概念が入ることによってわかりづらくなるケースが多いと言えます。例えば、低学年の頃は「りんごが5個あって3個食べました。残りは何個でしょう」など、イメージしやすい問題が多いのですが、中学年になると分数や小数、実在していないものや実体験のない問題が増えるため、どうしてもイメージしにくいからです。

また、小学3~4年生になって、低学年での学びの不十分さが現れてくる場合もあります。例えば、2けた×2けたの計算では、1年生で学ぶくり上がりのたし算や2年生で覚える九九が不十分だと正答できないのです。また、小学3~4年生になると、教科書やテストで使われる言葉が少しずつ難しくなっていくため、読解力や言葉の理解が十分でないと学習面でのつまずきにつながることもあるでしょう。

学習面が原因で「10歳の壁」にぶつかってしまうと、子どもは勉強に興味を失い、他のことに楽しみを見出すようになり、生活面や心身の発達のつまずきにつながるケースもあります。また、この頃は、ギャングエイジと呼ばれる時期であるため、同じような境遇の友だちと仲間になり、トラブルを起こしてしまうこともあるでしょう。


「10歳の壁」にぶつからないための対策

10歳の壁にぶつからない対策

「10歳の壁」に子どもがぶつからないためには、まずは親御さんが小学3~4年生の頃は、学習面でつまずきやすいということを知っておくことが大切です。3、4年生の1学期に教科書が配られたら、目次だけでいいので確認して、どの時期にどんな内容を勉強するのかを把握しておくとよいでしょう

また、日頃から分数や小数などの抽象概念を親御さんも生活の中で意識し、学習内容とつなげてあげるとよいかもしれません。例えば、ピザを食べる時に、ただ切って分けるのではなく「これは3分の1切れだね」「6分の1に切ってみよう」など話題にしながら食べたり、スーパーに子どもと一緒に買い物に行った時には「ペットボトルのジュースには1.5Lって書いてあるね」などと口にしていると、子どももイメージしやすくなるのではないでしょうか。先に述べたように、教科書の内容を把握しておけば、学習と生活をつなげることができるのです。

ちなみに、スーパーは教材の宝庫だということをご存知ですか?
先に述べたように小数点が表記された物がたくさんありますし、グラムやリットルなど様々な単位があり、商品の分け方も、ケーキのように1/8カットなどで売られているものもありますよね。子どもにとってスーパーは学びの場になり、具体的なイメージにつながるので、子どもと一緒にスーパーに買い物に行く機会をつくってほしいと思います。

学習面でつまずいてしまった時は、子どもが何がわかっていないのかを見てあげることが大事です。分数のテストが悪かった場合でも、分数ではなく、九九がわかっていないケースなどもあるからです。


「10歳の壁」と呼ばれる時期に、
親が心がけておくことと対応は?

ギャングエイジに親が心がけること

小学校中学年の頃は「ギャングエイジ」「10歳の壁」などと呼ばれるように、親御さんの接し方もなかなか難しい時期です。その中で大事になってくるのは、親御さんとお子さんとの距離感です。近すぎて過保護になってしまうのもいけないですし、遠すぎるのもよくありません。

「親として心配だから」「子どもに恥をかかせないために」という気持ちから、つい過保護になっている方もいるのではないでしょうか。教師をしていた時のことです。漢字の宿題を出したら、最初は子どもの字なのですが、明らかに途中から大人の字になっていました。きっと、宿題をちゃんとやって出さないといけないという親御さんの気持ちからだったとは思うのですが、代わりに宿題をやるのは適切ではないですよね。
わが子との距離は、近すぎても遠すぎても駄目だということを日頃から意識していれば、適切な距離感がわかってくると思います。ただし、ギャングエイジの時期は、少し距離を置いて、遠くから見守るくらいのほうが、子どもも親も互いに心地よく過ごせるでしょう。

2019年からGIGAスクール構想(生徒・児童1人につきパソコンやタブレットなどの情報端末1台と高速ネットワークを整備する取り組み)により、子どもたちにタブレットやパソコンが配られています。先に述べたような学習面でのつまずきも、タブレットなどをうまく利用することで、学習能力に応じて個別に取り組んでいけるので、「10歳の壁」を乗り込えるきっかけと考えています。また、文部科学省は情報端末を家庭に持ち帰ることを推奨していますので、宿題に活用することで子どものレベルに応じて取り組めるなど、プラスに働いているのは確かです。

一方、学校から配られる情報端末以外でも、高学年になるにつれて自分のスマートフォンやタブレットを持つ子も増えてきます。とくに女の子はスマートフォンやSNSに関するトラブルが発生することが多く、SNSいじめなどにつながっていく場合もあるようです。
タブレットやスマートフォンなどの情報端末の使い方については、親御さんが適切に関わっていくことが大切です。自治体でも色々なルールが出ていますので、それらを参考にしたり、どの年齢でどんな風に使わせるのかなどを決めておくことが重要だと思います。


子どもに起きる問題には理由がある

「ギャングエイジ」や「10歳の壁」に限らず、子どもに起きる問題というのは、その時に急に起こるわけではありません。それまでに色々なことが積み重なったために、今、起こっているのです。例えば、不登校という問題も、そこに至るまでを遡ってみると友だちと仲良くすることが上手くできてなかったのかもしれないですし、低学年の頃に勉強につまずいてわからないことが増えていったのかもしれません。ですので、問題が起こった時には、今、発生していることだけに目を向けるのではなく、過去に遡って考えてみると、問題に至るまでの原因が見つかると思います。

お子さんに関するトラブルが起こると、どうしても親御さんも落ち込んでしまいますよね。けれど、お子さんはもちろん、親御さんにとってもよい学びのチャンスだと発想を転換すれば、気持ちもラクになると思います。また、親御さんがそんなふうに捉えれば、子どもにもプラスに働くでしょう。
子どもは、校庭や公園で遊ぶ中で、転んだり、擦り傷など小さなケガを経験し、大きなケガにつながらない動作を学んでいきます。それと同じで、子どもは小さなトラブルを経験する中で育っていくのです。ですので、色々な体験をして、時には小さなトラブルを経験することが成長していく上では大事だということを知っておいてほしいと思います。

「ギャングエイジ」とは?
始まる時期や男女の違い、親の接し方

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<教えてくれた人>
鈴木邦明さん

帝京平成大学人文社会学部児童学科准教授の鈴木邦明さん

帝京平成大学人文社会学部児童学科准教授。神奈川県、埼玉県の公立小学校に22年勤めた後、短大、大学での教員養成、保育者養成に移り、現在に至る。現在は、大学での講義を中心に、保護者向けに子育て・教育、教員向けに授業方法・学級経営などのテーマで執筆、講演など幅広く活躍中。


ギャングエイジの特徴や原因、
男の子と女の子の違いとは?

ギャングエイジの特徴、男女の違い

「ギャングエイジ」とは、思春期に見られる反抗期とは違い、小学校3~4年生の頃、これまでとは少し違った態度を取り、親や先生などに反抗したり、そばにいる仲間からの影響を強く受けながら行動する時期のことです。

大人よりも仲間の考えを重視し、女の子同士、男の子同士で集団をつくって行動するようになるのが特徴です。女の子は比較的同じメンバーで行動する傾向があるのに対し、男の子は、休み時間や放課後に遊ぶ友だち、近所の友だち、習い事の友だちなど関係性が多様なケースが多いため、色々な集団に属している場合が多いと言えるでしょう。

ちなみに、文部科学省のホームページ「子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」にも、「9歳以降の小学校高学年の時期には(中略)、集団の規則を理解して、集団活動に主体的に関与したり、遊びなどでは自分たちで決まりを作り、ルールを守るようになる一方、ギャングエイジとも言われるこの時期は、閉鎖的な子どもの仲間集団が発生し、付和雷同的な行動が見られる」と記されています。
※参考:文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

思春期に見られる親や先生などに対する反抗は、子ども自身のストレスやモヤモヤした気持ちが要因になることが多いものですが、ギャングエイジはそれとは異なり、友だちとのつながりを大事にするが故に、大人に反抗的な態度をとったり、トラブルを起こしてしまうケースが多いと言えます。
ただ、思春期の反抗もギャングエイジも「子どもが自立に向かってもがいている姿」という点では同じだと言えるでしょう。

反抗期のない子どもがいるように、すべての子どもがギャングエイジを経験するわけではありません。ギャングエイジは、友だち関係の中で生じるので、比較的、学校のクラスが落ち着いていると、ギャングエイジ特有の行動は出にくい場合があります。ギャングエイジに限らず、いじめなども、クラスが落ち着いていると起こりにくいと言えるでしょう。

いつも1人でゲームをしているような子どもは、友だちとの関わりが少ないため、ギャングエイジに見られる反抗的な態度やトラブルは起こりにくいかもしれません。でも、ギャングエイジは、友だちとたくさん関わるからこそ生じる行動でもあるため、その中で学んでいくことも、子どもにとっては大切だと思います。


ギャングエイジに起こりやすいトラブルとは?

ギャングエイジに起こりやすいトラブル

ギャングエイジは数人の仲間で行動を取るという特徴があります。そのため、クラスでいじめを主導したり、集団で学校でのルールを守らないなどの行動を繰り返し、その結果、学級崩壊のような状況になってしまうこともあるでしょう。

学校外では、火遊びや壁にいたずら書きをしたり、コンビニなどで万引きをして警察沙汰になるなど、大きなトラブルに発展してしまうこともあります。とくに男の子は、様々なことに興味を持ちやすく、仲間同士で「ちょっとやってみよう」という冒険心が行き過ぎてしまい、トラブルを起こしてしまうケースが多いと言えるでしょう。

女の子の場合は、先にも述べたように同じメンバーで行動することが多いため、グループでのトラブルが多いと言えます。一度友だちとこじれてしまうと居場所がなくなってしまったり、他のグループの友だちと仲良くしていると「裏切った」と言われ、仲間外れやいじめに発展するケースもあります。男の子は、属するグループがいくつもあることが多いので、1つのグループで揉めても、ほとぼりが冷めるまで別のグループで遊んでいればいいのですが、女の子はいつも固定化されたメンバーでいることが多いので、女の子のほうが関係が悪化した時に、問題が大きくなりやすいと言えるでしょう。

家庭の中では、それまでは親の言うことを素直に聞いていた子どもが少しずつ反発するようになったり、行動が粗暴になることもあります。


ギャングエイジにトラブルが起きたときの子どもへの接し方

ギャングエイジの親の子どもへの接し方

トラブルが起きてしまったら、そのままにせず、子どもにその状況を聞いたうえで、親ができることを、親の立場でやっていくことが大切です。例えば、学級崩壊に近いような状態になってしまったら、担任や学年主任、管理職などと相談する場を作り、全体で前向きな話し合いをしていくと良いでしょう。

また、親御さんが謝る姿を見せるのもいいのではないでしょうか。例えば、子どもが調子にのって窓ガラスを割ってしまうなど、謝らなければいけないようなことをした時に、子どもだけでなく、親御さんも一緒に頭を下げる姿を見せると、子どもにとってよい影響になると思います。子どもは、一般的に謝るのが上手くないですし、謝る機会も多くはないものです。また、本当は「ごめんなさい」と言うべき場面でも、嘘をついたり、ごまかそうとします。私自身、小学校のクラスの担任の立場だった時、私が悪いと思うようなことが少しでもあったら、子どもたちに謝るように心掛けていました。親御さんが謝る姿を見せることで、子どもは自分がやってしまったことを反省し、謝ることの大切さも知るのではないでしょうか。

それまで仲良く関わっていたわが子が、反発したり、乱暴な態度をとるようになると、親御さんはイライラしてしまうこともあるでしょう。親子関係のほうが子どもと近いだけに、そうしたことが多いと思います。でも、ここで、厳しい対応をとっても、親御さんの想いはお子さんに伝わらないことが多いものです。家庭の中でトラブルが起こった時に何よりも大事なのは、親御さんが感情的にならないことです。最低限必要なことだけを伝え、その後はトラブルについて触れずに、切り替えていくような対応をとるといいでしょう。

ギャングエイジに起こりうるトラブルを知ると、事前に防ぐ方法が知りたいと思う親御さんもいるかもしれません。確かに、トラブルを起こさないことは大切です。でも、子どもは色々な経験をする中で育っていき、親御さん自身も成長していくように感じています。この時期は、親御さんにとっては苛立ったり、不安を覚えることが多いかもしれません。でも、思い通りにならないわが子との関わり方を、親御さんは試されていると思うのです。ギャングエイジは、子どもたち成長していくきっかけになる時期でもあります。この時期をそんなふうに捉え、ムキにならずに距離を置いて対応すれば親御さんの成長につながり、後に嵐のような反抗期がやってきた際も、上手く乗り切ることができると思います。


いかがでしたか?前編では、ギャングエイジの特徴や親の接し方をお届けしました。後編では、ギャングエイジと同じ時期に見られる「10歳の壁」「小4の壁」についてご紹介します。